TAP the SONG

革命的なブームを巻き起こしたクレイジーキャッツの”変な歌”②「無責任一代男」

2016.07.29

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①「PTAのおばさまなんかがガタガタ騒ぎ出すようなバカ歌で、バンバン売れる歌を作る」という選択


青島幸男が書いた「スーダラ人生 クレージー・キャッツ物語」によると、「スーダラ節」でレコードを出そうとしたときに、ふたつの選択肢があったという。

プロデューサーの渡邊晋やクレージーキャッツとの打ち合わせの席で、実力のあるミュージシャンが揃ったバンドなのだから常套的に「良い歌を作る」という案と、はなから割りきって「売れる歌を作る」という案が検討された。

選ばれたのは当然ながら、「売れる歌を作る」だった。
青島流に言えば、「PTAのおばさまなんかがガタガタ騒ぎ出すようなバカ歌で、バンバン売れる歌を作る」という方針が決まったのだ。

その結果として誕生したのがデビュー曲「スーダラ節」で、これが大ヒットしたことで、1961年の夏から秋にかけてハナ肇とクレージーキャッツの人気が急上昇する。

破竹の勢いを得て12月に発売された第二弾シングルは、1番から順にハナ肇と谷啓、植木等と歌い継いでいくスタイルの法螺話の「五万節」と、植木等の「ドント節」というカップリングだった。
ところが「五万節」に問題ありとクレームがついて、植木等の歌う3番と6番の歌詞のせいで放送禁止になる。

学校出てから十余年
今じゃタクシーの運転手
むやみやたらとブッとばし
書いた始末書五万枚
(サバ言うなこのヤロー)

学校出てから十余年
今じゃヤクザの大幹部
けんかでいりとひと騒ぎ
呼んだパトカー五万台
(サバ言うなこのヤロー)


作・編曲を担当したクレイジー・ソングの立役者、萩原哲章の発言によると「原案が青島幸男から出て、それからみんなで適当にでっちあげたんですが、でっちあげて面白かったものが全部ボツになって」しまったのだ。

あらためてレコーディングが行われて、1月に歌詞の変更ヴァージョンが発売された。

学校出てから十余年
今じゃ野球の大選手
右に左にうちわけて
打ったホームランが五万本
(サバ言うなこのヤロー)

学校出てから 十余年
今じゃなうての 事件記者
特種さがしの 明け暮れに
つぶしたシューズが 五万足
(サバ言うなこのヤロー)


しかし毒気を抜かれたために”バカ歌”ではなくなり、破茶目茶な面白さが消えてしまった。
だが青島幸男はそうした経緯にも懲りず、またしても「PTAのおばさまなんかがガタガタ騒ぎ出すようなバカ歌」を誕生させる。

ニッポン無責任一代男

②東宝クレーイジー映画の第1作『ニッポン無責任時代』の主題歌、「無責任一代男」の誕生


歌に先行して映画の脚本を書いた田波靖男は、「スーダラ節」から受けたグータラなサラリーマンのやるせない心情と、どこかヤケッパチな響きに共感を覚えてオリジナル・ストーリーを考えた。

固定化した組織や観念、人情などに縛られているサラリーマンのうっぷんを、自由な無責任男の行動に託して晴らそうというのがストーリーの狙いだった。
(田波靖男著「映画が夢を語れたとき」より)


完成したシナリオを読んだ青島幸男は、プロデューサーの渡邊晋から「青ちゃん、どうだ。シナリオ読んだか」と訊かれる。

「ええ、読みましたよ。面白かったですよ。とっても……。今までの日本映画になかった面白さだ」(同上)


そしてシナリオに隠されていた田波の意図を見抜いていたのか、ひとことこう付け加えたのだった。

「アメリカのハードボイルド小説みたいなところが、とっても良かったなァ」(同上)


アメリカのハードボイルド小説が大好きで、ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドなどを愛読していた田波は、そうしたハードボイルド・ヒーローの孤独と哲学を、植木等が演ずる主人公の行動規範に重ねていた。

そんな意図に気づいたであろう青島幸男の「無責任一代男」には、単なる”バカ歌”ではなく常識的な価値体系を破壊する生き方と、それを貫くための哲学があった。

こうして植木等の伸びやかでつやのある美声、妙に陽気で人なつっこい明るさ、その奥に反権威主義を秘めたコミックソングが誕生する。
吹奏楽団風のマーチで底抜けの高揚感を感じさせる萩原のアレンジも、それまでにはない画期的な仕上がりとなった。



「無責任一代男」作詞・青島幸男 作・編曲 萩原哲晶

おれはこの世で一番
無責任と言われた男
ガキの頃から調子よく
楽してもうけるスタイル

学校に入ってからも
ヨウリョウはクラスで一番
月謝はいらない特待生
コネで就職かァ OK


植木等が主演してクレイジーキャッツのメンバー全員が活躍する映画『ニッポン無責任時代』は、都会派サラリーマン映画で定評のある東宝で8月に公開されると大ヒットを記録した。

無責任
「ハイそれまでよ」とのカップリングで発売されたレコードも大ヒットし、「無責任一代男」の植木等は時代のヒーローとなり、無責任は流行語になって社会現象化していく。

毎日会社に来ても
デスクにじっとしてるだけ
いねむりしながらメクラバン
それでも社長になった

人生で大事なことは
タイミングにC調に無責任
とかくこの世は 無責任
こつこつやる奴ア ごくろうさん


植木等が主演する映画はただちにシリーズ化されて、続編の『ニッポン無責任野郎』や『日本一の色男』でも、主人公のテーマソングとして「無責任一代男」が歌われた。

この歌でその後の人生が決定づけられた少年たちが、当時は日本中にそれこそ巨万(ごまん)といたに違いない。
そして青島幸男は「無責任一代男」を書いてからわずか6年後、「こつこつやる奴ア ごくろうさん」と言わんばかりに国会議員になったのである。

(このコラムは2016年5月27日に公開されたものです)

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