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オザケン27歳、二人のジャズ・メンとの出会い

2017.02.24

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“オザケン”の愛称で親しまれる小沢健二。
1980年代後半、小山田圭吾と組んだフリッパーズ・ギターでは、渋谷系のムーヴメントの先駆けとなった。
1991年に解散した後は、コーネリアスとしてアーティスティックな活動を始めた小山田圭吾とは対照的に、ソロ活動でポップ路線に道を進めた。

1994年にはヒップホップ・グループのスチャダラパーと共演した「今夜はブギー・バック」がヒット、この曲を収録したソロ2作目のアルバム『LIFE』も大ヒットとなった。
さらに『LIFE』から「愛し愛されて生きるのさ」、「ラブリー」、「ドアをノックするのは誰だ?」、「ぼくらが旅に出る理由」などが立て続けにヒットし、数々のテレビの歌番組に出演したり、大規模な全国アリーナ・ツアーが行われた。
そして年末にはNHK紅白歌合戦にも出演を果たしたのだった。

そんな多忙を極める中でも、小沢はいろんな音楽を並行して聴きながら、気になるライブには足を運んでいたという。
そこで出会ったのが二人のジャズメン、ピアニストの渋谷毅とベーシストの川端民生だった。

彼らの音を聴いてピンときた小沢はすぐさま、自らピットイン(新宿の老舗ジャズクラブ)で渋谷に共演をお願いした。
渋谷毅56歳、川端民生48歳、ジャズ好きの人からは「すごいね、その人選は!」と言われたという。
「二人の顔がめちゃくちゃいいんですよ!」と言いながら、小沢よりもずいぶん年上の彼らについてこのように語った。

「形としてのジャズをやるんじゃなくて生活と自分の出す音が一致していくということをいつも感覚を鋭敏にして追っかけていると、こんなに野獣のように鋭いものになるんだなあと思って。自分もそういう風に鍛え上げたいなあと思っているんですけどね」


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二人と一緒にやるのは本当にスリルがあるし、何よりの喜びだったとも語る小沢健二。
彼らとのレコーディングで、すごく成長したという。

『LIFE』の次のアルバムを最初からジャズにしようと考えていたわけではなかった。
「オザケン海へ行く」をテーマに、海辺へ持って行ってワイワイ楽しめるような楽曲を作り始めていたのだそうだ。
しかし、だんだん“気分”が変わっていったのだという。それどころか、そのために書いた曲を全部ボツにしたのだ。
前作の『LIFE』では、全曲シングルを作るような曲作りをしていたというが、渋谷、川端の二人とセッションを重ねながら、シングルっぽい曲はボツにしていくということが、面白いと感じたともいう。

そうして「オザケン海へ行く」は『球体が奏でる音楽』へと変わっていった。


気分。
オザケンの歌の魅力は“気分”にあったといえるだろう。
彼の飾らない等身大の”気分”をまっすぐに表した詞が、同世代のまたは同時代を生きる若者たちに強く共感を呼んだ。そして1960~70年代のソウル~モータウンヒッツを思わせるような楽曲のアレンジも、上手く彼の”気分”に寄り添った。
当時アイドル並みにシングル・ヒットを量産していたオザケンの歌は、いつもその頃の僕らの“心のベストテン第一位”を飾ってくれたのだった。

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そして小沢健二28歳の時にリリースされたアルバム『球体の奏でる音楽』は、今までのポップ路線からジャズに舵を切ったことが驚きとともに話題となった。
リード・シングルの「大人になれば」は、もう子供ではないけれど大人にもまだなりきれない年頃の、ちょっぴり大人のページをめくってみた気分が、ジャズのやさしいメロディーにのせて歌われる。このようにしてボーイズ・ライフから少し大人へと歩を進めたオザケン・ワールドがこの後も展開されるものだと思われた。

「大人になれば」



だがその後、小沢はかつてのような大規模ツアーを行うことはなかった。
渋谷と川端と3人編成でいくつかのライブを行い、ジャズフェスにも出演するなどしたが、1998年、突然活動を休止してしまう。
それまでのようにまたヒット曲を作り続けることも、彼には可能だった。
しかし、それらも捨ててファンの前からはすっかり姿を消してしまうのだった。


小沢健二『球体の奏でる音楽』
EMIミュージック・ジャパン


参考文献:Rockin’ on Japan 1996年10月号 小沢健二インタビューより

(このコラムは2016年9月17日に公開されたものです)

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