中村一義が両親の離婚をきっかけに、祖父母の暮らすアパートの2階で一人暮らしを始めたのは、中学時代の時だった。ブルーハーツをはじめ、すでに色々な音楽を聴いていたが、自身の創作活動はというと、音楽よりも絵のほうに興味が向いていたという。
漫画家、あるいは画家になりたいと思って絵を描いていた中村一義が、音楽へと切り替えたのは1990年頃。学校ではストーン・ローゼズやプライマル・スクリームといったブリティッシュ・ロックが流行っており、ある時友人から薦められたラジオを聴いてみたのだという。
そうして出会ったのが、ラーズの「ゼア・シー・ゴーズ」だった。
「ゼア・シー・ゴーズ」が流れてきて、それを聴いた瞬間、筆をポイッと投げて「こんなことやってる場合じゃねえ!」「ゼアに行かなきゃ!」ぐらいになったんですよ(笑)
シンプルなメロディが何度も繰り返される「ゼア・シー・ゴーズ」は、ラーズが1988年にリリースした2ndシングルだ。
あのメロディがホントに好きで、神がかってるとすら思う。音楽家的に理解している部分もあるんで、絶対に「ゼア・シー・ゴーズ」のエッセンスを入れるようにしてるんですよ。どの曲にも。
ザ・ラーズが結成されたのは1984年頃。ギター、ボーカルでソングライティングも手がける、リー・メイヴァースを中心とするこのバンドは、何度かのメンバーチェンジの末、1987年に「ウェイ・アウト」でデビューを果たした。
その後、地元リヴァプールでのライヴを中心にして精力的に活動を続け、翌1988年に「ゼア・シー・ゴーズ」のリリースに至った彼らだが、ザ・スミスのモリッシーをはじめとして一部から高い評価を受けたにも関わらず、セールス的には振るわない結果となってしまう。
レコード会社はその翌年にも、いい曲だから売れるはずだという確信からか、「ゼア・シー・ゴーズ」を再度リリースしたが、またしてもヒットには至らなかった。
バンドのほうはというと、幾度もメンバーを入れ替えており、アルバム制作はほとんど進んでいなかった。1989年になってようやく4人のメンバーが固まり、アルバムのレコーディングに取り掛かる。だがリー・メイヴァースは、その出来に納得しなかった。
そして1990年、デビューから3年が過ぎ、相当なお金を注ぎ込んでいるにも関わらず、アルバム1枚すら完成しないことに業を煮やしたレコード会社は、すでに録音されていたテープを、メンバーに無断で完成させてリリースするという手段に出た。
この強行策とアルバムの仕上がりに、リー・メイヴァースが腹を立てたのは言うまでもないだろう。結局ラーズは、それから1年ほどで活動を停止させてしまう。
そんな曰く付きのデビュー・アルバムとなった『ザ・ラーズ』だが、音楽メディアから高い評価を受けただけでなく、全英チャートでは30位に、そしてアルバムバージョンとして再びリリースされた「ゼア・シー・ゴーズ」は、シングルチャートで13位とセールス的にも結果を残している。
おそらくリー・メイヴァースは、制作費や時間といった理由で折り合いを付け、完璧でない状態で自分の作品を発表することに強い抵抗を感じる、職人気質な性格なのだろう。
ある意味で執念ともいえる、リー・メイヴァースの強い気持ちが宿った「ゼア・シー・ゴーズ」だからこそ、中村一義に筆を投げさせるほどの衝撃をもたらすことができたのかもしれない。
引用元:『魂の本 ~中村全録~』中村一義・著(太田出版)

the La’s

中村一義「金字塔」
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畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
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