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「TAP the COLOR」連載第391回〜MONOCHROME〜
カントリー・ミュージックにはアウトローの系譜がある。酒のせいでナッシュビルの聖地グランド・オール・オプリーから締め出されたハンク・ウィリアムズ。ドラッグやアルコール中毒の伝説となったジョージ・ジョーンズ。ジョニー・キャッシュはレコード会社の反対を押し切って刑務所での荒々しいライブを録音した。刑務所上がりで有名なのはマール・ハガードやデビッド・アラン・コーだ。一匹狼ならタウンズ・ヴァン・ザントが深い印象を残す。
キース・リチャーズにカントリーの良心を伝えたグラム・パーソンズ。ナッシュビルのシステムと折り合いがつかなかったウィリー・ネルソンやウェイロン・ジェニングス。他にもクリス・クリストファーソン、ジェリー・ジェフ・ウォーカー、マイケル・マーティン・マーフィ、ビリー・ジョー・シェイヴァー、ガイ・クラークなどが思い浮かぶ。また、ジョン・プレイン、スティーブ・グッドマン、シェル・シルヴァスタインらの曲はアウトローたちが何度も取り上げる。
1980年代後半からはドワイト・ヨーカムやトラヴィス・トリット、2000年代以降ではライアン・アダムスにも同じスピリットが感じられる。共通する一番大切なことは、アウトローたちが素晴らしい曲を作ったり歌ったりするということだ。
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クリス・ステープルトン『Traveller』(2015)
ソングライター、ミュージシャンとしてカントリー界で着実に実力をつけた男の、37歳のデビューアルバム。「自分でやれることはすべてやり尽くした」と言うように、本作には書き溜めていたであろう「これぞカントリー」と呼べる極めて優れた楽曲が並ぶ。総合チャートで2週、カントリーチャートでは幾度となくトップに立ち、トータル29週も居座った。カバー曲にもいぶし銀のような味わい深さがあり、ジョージ・ジョーンズの「Tennessee Whiskey」は本作の聴きどころの一つだ。
ニッキー・レイン『Highway Queen』(2017)
女にだってアウトローはいる。SNS時代に生きるカントリーロック・ウーマンがニッキーだ。このアルバムジャケットを見たときの衝撃。タイトルも含めて一目でアウトローだと分かる世界観。今時のポップスターたちのセレブ感覚とは対極を突き進むロードムービーの荒野。ブルーズにロカビリーとルーツミュージックへのリスペクトも忘れない。何が起こるか分からないのが今の音楽シーン。いずれメインストリームで頂点を獲る日も来るはずだ。彼女はそんなこと望まないだろうけど。
ハイウィメン『The Highwomen』(2019)
ブランディ・カーライル、ナタリー・ヘンビー、マレン・モリス、アマンダ・シャイアらによるスーパーグループ。もちろん80年代に話題になったジョニー・キャッシュ、ウィリー・ネルソン、ウェイロン・ジェニングス、クリス・クリストファーソンらによる偉大なるアウトローたち「ハイウェイメン」へのオマージュだ。タイトル曲「Highwomen」はオリジナル「Highwaymen」の歌詞を書き換えて歌われる。
ビリー・ジョー・アームストロング&ノラ・ジョーンズ『Foreverly』(2013)
異色のデュオ。このアルバムを見つけた時はそう思ったが、聴いてみるとめちゃくちゃ相性がいい。もともとカントリーからの影響が大きいノラのスモーキーな声と、グリーン・デイで鍛え上げたビリーの乾いた声が絡み合う。エヴァリー・ブラザーズの1958年のセカンドアルバム『Songs Our Daddy Taught Us』をそのままカバーしているのにも泣けてくる。こういう試み自体が素晴らしい。
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