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「TAP the COLOR」連載第84回
そこに住んでいる人以外は誰も知らないような、ごく小さな町が、アメリカには星の数ほどある。「スモールタウン」と呼ばれている。人口は、多くても1万人には満たない。せいぜいが3000人どまり。町のサイズはメイン・ストリートを中心に、縦横にわずか数ブロックほどだ。
ウィスコンシン州の小さな町で出会った中学生の女の子は、こんなことを教えてくれた。
「スモールタウンは、私みたいな作家志望の中学3年生には、最適な場所かもしれません。そもそも都会における情報というのはすべてが断片で、全体としての像を結ばないでしょう? でもこのような小さな町では、ひとりひとりの人生の全体というものが見えるんです。この町の人が喋る言葉には、その人ならではの人生や、静かだけれど確かにその人以外ではありえないような重みがあるんです」
駒沢敏器『語るに足る、ささやかな人生』・序章より
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ジョン・メレンキャンプ『Scarecrow』(1985)
ずばり「Small Town」という名曲を収録したヒットアルバム。「俺は小さな町で生まれた」という一節から始まる力強い誇りの歌。「自分がどこから来たか忘れることはできない。愛してくれた人たちのことも忘れられない」と続く。ジョンはインディアナ州の人口2万人にも満たない小さな田舎町で生まれた。
ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ『The Way It Is』(1986)
ブルース・ホーンズビーもまた、スモールタウンへの郷愁を呼び起こすアーティストだ。MTVやポップで派手なものがシーンを覆っていた1980年代半ば。「The Way It Is」や「Mandolin Rain」といったヒット曲で短編集的な世界を綴った。あれから30年が経ち、人々の心に残ったのはこういった風景の歌だ。
フーティ&ザ・ブロウフィッシュ『Cracked Rear View』(1994)
約1年掛かって遂に全米1位を獲得したアルバムであり、1600万枚以上を売り上げた驚異作。南部生まれの地味なルーツ・ロックがこれほどまでに支持された事実とアメリカのスモールタウン・マップが結びつく。「Hold My Hand」「Let Her Cry」など4曲のヒットを生んだ。Voのダリアス・ラッカーがソロに転身してカントリーで成功したのも頷ける。
シヴィル・ウォーズ『Barton Hollow』(2011)
オルタナ・フォーク、インディ・フォークなどとも呼ばれるシーンがメインストリーム化した2010年代初め。テネシー州ナッシュヴィルで結成されたジョイ・ウィリアムスとジョン・ポール・ホワイトのデュオによるデビュー作。シンプルな音と歌は、ネットやソーシャルで今を生きる若い世代にも支持されて、アメリカの音楽風景の深さを改めて知らされた。グラミーを受賞するも、残念ながら2014年に解散。
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