2003年4月22日のアースデーの夜。日本武道館で開かれたTOKYO FM主催の“アースデー・コンサート”は、まず夏川りみの歌声で始まり、次にミッチーこと及川光博に受け継がれて序盤はつつがなく進行していた。
しかしミッチーの登場で盛り上がった後、忌野清志郎が張り出しステージに登場したところから、舞台裏ではちょっとした騒ぎが続くことになる。
ボブ・ディランの「風に吹かれて」を歌った忌野清志郎のソロ・コーナーで、3曲目に予定されていた「スローバラード」の代わりに、突然「あこがれの北朝鮮」が歌われたのが発端だ。
忌野清志郎は歌い終わってから、「イラク戦争でちょっと影が薄くなったなと思って『あこがれの北朝鮮』、久々にお送りしました」と客席に向けてコメントしたが、観客の多くは唖然としていた。
翌日のスポーツ新聞ではこのように報道された。
ロック歌手の忌野清志郎(52)が22日夜、東京・日本武道館で開かれた世界中継公演「アースデー・コンサート」に生出演、歌唱中に放送を“カット”されるハプニングがあった。
問題の場面は、清志郎ソロコーナーの3曲目。当初「スローバラード」を歌うはずだったが、突然、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に関する歌を歌い始めた。95年に覆面バンド「ザ・タイマーズ」として発表した「あこがれの北朝鮮」。清志郎は「差別も国境もテポドンもなくなるさ」と歌い続けたが、生中継していたTOKYO FMでは1分弱オンエアして、急きょ公演の説明などに差し替えた。(「スポーツニッポン」2003年4月23日)
そんな混乱を知ってか知らずか、忌野清志郎は「ブーアの森」から「花はどこへいった」と続けると、「暑いぞベイビー!」と叫んだ後で、人気曲である「雨あがりの夜空」のイントロを一瞬だけ弾いてみせた。
その音を聴いて期待した観客に向かい、「オーケー、今日はどうもありがとう」とはぐらかすかのように言うと、激しくギターを掻き鳴らしながら「君が代(パンク・ヴァージョン)」に突入していったのだ。
(47分47秒あたりから)
「君が代」はアルバム『冬の十字架』の1曲として1999年10月にリリースされる予定だったが、レコード会社によって発売が中止されるという過去があった。
予定になかった国家が歌われている間、ラジオから歌が聞こえないようにするために、女性アナウンサーはつとめて冷静にライブの模様を言葉で説明し続けた。
途中からは環境問題についての原稿などを読んでお茶を濁したので、「君が代」は遠くのほうから騒音のように聞こえてくるだけだった。
そんな「君が代」が終わるとメインステージにはザ・ホーボー・キング・バンド(H.K.B.)が登場、そこに忌野清志郎も加わってファンキーなR&Bのスタンダード曲、「Them Changes」のセッションが始まる。
そこからは会場の空気が一変してホットになり、忌野清志郎がメインアクトの佐野元春を呼び込んだ。
「オーケー、オレの古いダチを紹介しよう!
ごきげんなやつを紹介しよう!
マイ・オールドフレンド!
サノー、佐野元春ーっ!」
そしてP.Fスローンが作詞作曲してバリー・マクガイアが歌った、1965年のヒット曲「明日なき世界」のイントロが流れ始めた。
核戦争後の恐怖を描いたこの歌は発表された当時、アメリカの各州で放送禁止になったにもかかわらず全米1位になった。
ハンドマイクの忌野清志郎、ギターを引きながらの佐野元春、二人が痛烈な反戦歌を歌うと、会場は一気にヒートアップしていった。
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照れながらも忌野清志郎が佐野元春を「スルメみたいに味が出てきます」と紹介した夜
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