イギリスが生んだ70年代を代表するロックバンドのひとつ、ロキシー・ミュージック。その最後のオリジナル作品となったのが、ケルト神話に出てくる伝説の極楽島アヴァロンをモチーフにした、1982年のアルバム『アヴァロン』だ。
これは結成以来メンバーチェンジを繰り返しながらも、一貫して自らの美学を追求してきたブライアン・フェリーが、ついにその頂点に達したといわれる作品で、全英チャート1位の大ヒットとなった。
アルバム制作時のメンバーは以下の3人だ。
ブライアン・フェリー(ボーカル、キーボード)
アンディ・マッケイ(サックス、オーボエ)
フィル・マンザネラ(ギター)
フィル・マンザネラは1951年1月31日、イギリス人の父とコロンビア人の母の間にロンドンで生まれる。家の事情でハワイやコロンビアなど様々な国を転々とし、6歳のときにキューバで母の持っていたスパニッシュギターを弾き始めた。
その頃に培ったラテンのリズムは、フィルのギターを特徴づける重要な要素のひとつとなる。
10代半ばの頃に聴いたジミ・ヘンドリックスに刺激を受け、1970年には大学時代に組んでいたバンドの延長でクワイエット・サンを結成するが、レーベル契約を得ることができず1972年に解散してしまう。
その一方で、フィルは1971年年10月にまだデビュー前だったロキシー・ミュージックのオーディションに参加していた。採用されたギタリストは元ナイスのデヴィッド・オリストだったが、フィルの才能が評価されてローディー兼エンジニアとして加わることになる。
それから数ヶ月後、オリストが突然抜けてしまったことを受け、フィルは正式にロキシー・ミュージックのギタリストとして採用された。
ロキシー・ミュージックは音楽だけでなく、ファッションやアートワークなどで、バンドの存在がひとつのポップ・アートになっていたことで大きく注目を集める。かつて美術の教師をしていたブライアン・フェリーのキャリアやセンスが、「音楽」と結びついて新しい時代の表現を感じさせた。
フィルはロキシーのメンバーとして活動する中、1975年にはソロ・アルバム『ダイアモンド・ヘッド』をリリースした。レコーディングにはロキシー・ミュージックやクワイエット・サンのメンバーも参加している。
1978年には再始動したロキシー・ミュージックに参加して、その独特なテクニック&サウンド、さらにはコンポーザーとして貢献し、ブライアン・フェリーと共にロキシー・ミュージックのヒット曲も手がけた。
そしてラスト・アルバム『アヴァロン」の成功にも大きく寄与する。ロキシーの特長だった耽美主義、ダンディズム、ソフィスティケーションが、音楽に昇華されることによって、幻想的かつ魅惑的なアルバムに結実した。
フェリーがこれを最後にバンドを自然に消滅させたのは、最高峰に到達したことを自覚したからであろう。
バンド解散後、フィルはソロ・アーティストとして幾つかのプロジェクトを率いて名盤・名曲を生み出していった。さらにはプロデューサーとして、ピンク・フロイドやディヴィッド・ギルモアの作品も手がけている。
2015年には自伝的アルバム『ザ・サウンド・オブ・ブルー』をリリースし話題を呼んだ。
幼い日に聴いたラテン・ミュージック、10代の頃に影響を受けたジミ・ヘンドリックス、ブライアン・フェリーの元で培ったアート感覚、そして『アヴァロン』で見せた幻想的なサウンド。
今もフィル・マンザネラの音楽は、多彩な音色と世界観で満たされている。
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