ドラマ『孤独のグルメ』をはじめ、テレビ、映画、舞台と八面六臂の大活躍をみせる俳優・松重豊さん。実は無類の音楽好きだってご存知でしたか?
松重さんがパーソナリティを務めるラジオ番組『深夜の音楽食堂』(Fm yokohama・毎週火曜深夜0:30より放送中)は、T字路s、Rei、cero、片想い、NakamuraEmi……などなど、TAP the POPでも紹介してきた気鋭のアーティストたちを次々にゲストに招き、ディープな音楽談義を展開。流行に流されない芯のある音楽を毎回たくさん紹介している、最近では珍しいほどに骨太な音楽番組なんです。
自分を育んだルーツにある音楽を大事にしながら、50代半ばを超えた現在も、新しい音楽を貪欲なまでに漁り続けている松重豊さんは、TAP the POPが考える理想のリスナー像だ! ということで、サイト開設5周年を記念してスペシャル・インタビューを敢行。ラジオ番組収録後のスタジオで、あふれる音楽愛をたっぷり語ってもらいました!(前編・後編に分けてお届けします)
取材・文/宮内 健
- 松重 豊(まつしげ・ゆたか)
1963年福岡県出身。蜷川スタジオを経て、映画、舞台、ドラマなど幅広く活躍する俳優。2012年に放送開始した連続TVドラマ初主演作『孤独のグルメ』(久住昌之・原作)はシーズン8まで続く大ヒットシリーズとなり、3年連続大晦日スペシャルも放送(テレビ東京:2019年12月31日22時〜)。
主な出演作に、映画『血と骨』『しゃべれどもしゃべれども』『アウトレイジ ビヨンド』、ドラマ『ちりとてちん』『八重の桜』『アンナチュラル』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など。
──松重さんにとって、最初に衝撃を受けた音楽はどんなものだったのでしょう?
僕はもうすぐ56歳になるんですが、世代的にいうと、ビートルズはもう終わっていて。やっぱり衝撃的だったのは、パンク。田舎町にもパンクっていう音楽が入ってきて、中学生の頃から音楽にのめり込んでいった感じです。地元は福岡なんですが、サンハウスっていう伝説のバンドを中心に、ザ・ルースターズとかザ・ロッカーズといったバンドが“めんたいロック”と呼ばれる時代があった。福岡にいたので、そういう音楽にはダイレクトに触れていて。一方で、東京にはフリクションやリザード、S-Kenといった“東京ロッカーズ”という人たちがいて、ここにもすごいことをやってる人たちがいるんだとは認識していました。
映像や演劇の世界に入ったきっかけは、『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)という映画。監督の石井聰亙さん(現・石井岳龍)は、それまでにも『1/880000の孤独』(1977年)や『突撃!博多愚連隊』(1978年)といった、パンク・ムーブメントと共鳴した映画を作っていて。『爆裂都市 BURST CITY』にはザ・ルースターズやザ・ロッカーズも出ていたこともあって、音楽をやることじゃなく、映画を作ったりすることでロックなことができればと思って、この世界に入ったんです。
もともとは映画や演劇を制作する側になりたかったんですけど、気がついたら自分が演者のほうに回っていた。50代半ばにして、好きなことをしよう! と思って、『深夜の音楽食堂』というラジオ番組をはじめたんです。
──10代の頃から音楽に触れてきて、実際にライブ会場に足を運ぶことも多かった?
10代から20代ぐらいまでは、よく行ってましたね。ジョニー・サンダースが新宿のツバキハウスでライブをやった時も観に行ったし。舞台の仕事で初めてロンドンに連れていってもらった時も、オフの時間に他のみんなは劇場に行ってたけど、僕はパブリック・イメージ・リミテッドがライブハウスでやってるっていうので、一人で観に行ったりとか。日本のバンドでは、ヒカシューのライブなんかも生で観られたのは衝撃でしたね。その頃に観たものからは、大きな影響を受けてるんだろうなって思います。
ただ、生活の基盤が芝居が中心になっていくにつれ、まわりにバンドマンが少なくなっていったこともあって、自然と音楽から離れていた時期はありました。再び音楽が身近になったのは、iPodの登場以降かな。好きな音楽を持ち歩けるだけじゃなく、ライブラリを常に手元に置けるようになったことで、やっぱり音楽は自分にとってかけがえのないものなんだなって、改めて気づいたんです。
さらに、iPodやiTunesのライブラリを家族と共有することで、僕が聴いてたようなマニアックな音楽を息子がそっくりそのまま聴いて育った。すると、息子は息子で音楽好きとして独自の進化を遂げていて。今では息子から、「お父さんが聴いてるような音楽の趣向を発展させると、今はこういう音楽が面白いんだ」って、新しいミュージシャンを教えてくれたり。そこで僕も、「じゃあ、お前これも聴いてみろよ」と別の音楽を薦めたりして。そんな感じのやりとりはしょっちゅうありますね。そういう情報共有はすごく楽しいです。
──昔だったら、お父さんが持ってるレコードを子供が聴いて育った、みたいなことはよく聞きますが、iTunesのライブラリを共有するっていうのは、素敵な家族関係ですね。
普通は親父の聴く音楽なんて……って思うんだろうけど、こういう親父に育てられたおかげで、子供たちは「同世代の友達とカラオケに行っても、全然面白くない!」って言ってます(笑)。我が家では、マニアックな曲が揃ってるカラオケ屋に行って、みんなで歌いまくってて。つい最近も家族でカラオケに行って、七尾旅人さんの「サーカスナイト」を歌ってましたから。
──そんな松重さんの音楽的な趣向を掘り下げてみたいんですが、根っこにあるのはやっぱりパンクですか?
パンクもそうですし、バイト時代にブルース・バンドでちょっとだけサックスを吹いてたこともあったので、その頃にブルースにハマって。ブラック・ミュージックの中でも、ネオ・ソウル的なものは本当に好きなんだなって思うし。その一方で、テクノ・ポップみたいも昔から大好きでしたし、そこから派生するエレクトロニカも聴くし。だから、パンク、ブラック・ミュージック、テクノが基本の柱ですかね。
──番組でゲストに呼んでいるアーティストには、最近だとceroやWONK、Kan Sanoなど、ネオ・ソウル的な文脈に位置するような人たちも多いですよね。そのあたりの音楽にピンときたきっかけは?
僕らが若かった時代にはディスコっていうのもありましたので、そこでソウル・ミュージックには触れていて。それにフュージョンと呼ばれる音楽も、当時はバカにされることも多かったけど、あらためて聴いてみると「やっぱりフュージョン好きだな」って思うことも多くて。そういう流れの中で、今のネオ・ソウルみたいな音楽にも惹かれたのかな。詳しいジャンル分けはよくわからないんだけど、「君が好きなのはネオ・ソウルだね」って言われて、そうなんだって気づいた部分もあるし。それから集中的に聴くようになりましたね。
──松重さんはリスナーのあり方として、ジャンルの垣根なく、いろんな音楽を行き来している印象を受けます。
僕は単純に音楽が好きなだけなんでね。ミュージシャンでもなんでもないから、好きなものはまんべんなくいろんなところから聴く。ただ、一般的にコレいいでしょって言われてるものには、不思議と琴線が触れないんです。きっと僕みたいな人は多いと思うし、『深夜の音楽食堂』は、そういう人たちの拠り所になるようなラジオ番組であればいいなって思ってるんです。
*松重豊スペシャル・インタビュー【後編】では、新しい音楽も聴き漁るリスナーとしての飽くなき好奇心、そして、長年の友人である甲本ヒロトさんとの関係について伺います。後編はコチラ
Fm yokohama・毎週火曜深夜0:30~1:00
松重豊がパーソナリティを務め、俳優や映画監督、ミュージシャンなどをゲストに迎え、ゆったりとトークを繰り広げながら、お気に入りの音楽を届ける音楽番組。2016年10月にスタートし、4年目に突入。初回ゲストは甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)。大杉漣、光石研、田口トモロヲ、六角精児、木野花、黒木華、星野源といった、所縁の深い音楽好きな俳優たちも続々と登場している。
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*本コラムは「TAP the POP5周年企画」として2018年12月31日に公開された記事に加筆修正をしたものです。