「手紙~拝啓 十五の君へ~」/アンジェラ・アキ
今年も卒業のシーズンがやってきた。
誰もが経験する、この“巣立ちのセレモニー”をテーマに歌った曲を一般的に「卒業ソング」という。
明治時代から唄われてきた「仰げば尊し」や、18世紀にスコットランドの詩人ロバート・バーンズが綴った「蛍の光(Auld Lang Syne)」のような定番の唱歌は、今や遠い過去のメロディとなり…卒業ソングは昨今のJ-POP界においての“高確率ヒット枠”と云っても過言ではないだろう。
団塊の世代から平成生まれまで、それぞれの年齢によって思い出の卒業ソングが違ってくるところも面白い。
よって、このテーマにおいて古今東西のランキングなどを語ることは野暮なのかもしれない。
今回は、ここ数年の間に発表された卒業ソングの中でも人気の高いアンジェラ・アキの「手紙~拝啓 十五の君へ~」という歌をご紹介します。
彼女が未来の自分に宛てたこの手紙(歌詞)は、いったいどのような経緯で書かれたものなのだろう?
2008年のNHK合唱コンクール・中学生の部の課題曲として書かれたというこの曲は、自身が体験したエピソードが題材になっているのだという。
彼女は、あるインタビューでこんなことを語っている。
実際に自分が手紙を書いたのは17歳の時でした。
アメリカの高校生だった頃です。
親にも言えない、友達にも話せないことを未来の自分に相談にのってもらおうと、30歳の自分あてに書いたんですね。
自分では、その手紙の存在をすっかり忘れていたのですが、合唱コンクールの作曲のお話をいただいて、「中学生にどんな歌詞を?」と考えていた時に30歳の誕生日を迎え、母がその手紙を送ってきてくれたのです。
10代の自分からの手紙を読んでみると、「なんでこんなことで悩んでいるの?」と、切なくなって。
もしあの時の自分に何か言えるなら、何と言ってあげるだろうと思って、ピアノに向かっているうちに生まれたのが「手紙~拝啓 十五の君へ~」の歌詞でした。
*「子ども応援便り」(発行/子供たちの豊かな育ちと学びを支援する教育関係団体連絡会)より
全編日本語で綴られたこの歌詞に登場する唯一の英語表現“Keep on believing”というフレーズに彼女はどんな気持ちを込めたのだろう?
私は、「あきらめない」ことよりも、“ing”、“~し続ける”ということの方が大切だと思っています。
私は18歳で歌手になることを決めてから、10年間デビューできませんでした。
よく「10年もあきらめずに、すごいね」と言われますが、何度も挫折して、音楽自体を投げ出したこともありました。
途中でbelieveできなくなっても、時間が経ってまたできるようになったら、それは続いているということ。
そんな考えが、私にとっての支えでした。
もしすぐにデビューできたら、この「Keep on believing」という言葉にたどりつくことはなかったかもしれません。
“ ing”をつけたのには、たどりついてもその先があるし、たどりつけなくても終わりじゃない、”~し続ける”ことが大切、という想いをこめています。
*「子ども応援便り」(発行/子供たちの豊かな育ちと学びを支援する教育関係団体連絡会)より
この楽曲をモチーフにした中田永一の小説『くちびるに歌を』が、新垣結衣主演で映画化された。(2015年2月28日公開)
作曲のきっかけとなったNHK合唱コンクールで、アンジェラ・アキ自身が全国の中学生に会いに行き、直接対話をするというドキュメンタリー番組でのエピソードをもとに書き下ろされた小説が原作となっている。
作家の乙一が別名義の中田永一で発表した本作は、2011年に出版される否や、青春小説の決定版として支持を受け、第61回小学館児童出版文化賞や読書メーターおすすめランキング第1位に輝いたベストセラー小説である。
“現代版・二十四の瞳”とも言えるこの作品は、ぶっきらぼうな美人天才ピアニストが、東京から故郷の長崎・五島列島の中学校へ臨時教員として戻り、合唱部の顧問となる。彼女がコンクール出場を目指す部員たちに“15年後の自分”へ手紙を書く課題を出すというストーリーだ。
キャストは新垣のほか、木村文乃、桐谷健太、木村多江、小木茂光、眞島秀和、石田ひかり、角替和枝、井川比佐志などが脇を固める。
そのうち、合唱部員サトルの兄役として渡辺大知(黒猫チェルシー)も出演する。
監督は『ソラニン』『僕等がいた』『陽だまりの彼女』『ホットロード』『アオハライド』などを手がける恋愛映画の名手・三木孝浩。
映画『くちびるに歌を』予告篇
■アンジェラ・アキ オフィシャルサイト
http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/AngelaAki/
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