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『フェスティバル・エクスプレス』が映し出したミュージシャンの非現実的な日常

2015.04.28

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1970年6月29日、フェスティバル・エクスプレスと名付けられた列車がカナダのトロントを出発した。
乗車しているのはグレイトフル・デッド、ザ・バンド、ジャニス・ジョプリンらをはじめとした、数十人のミュージシャンとスタッフたちだ。

フェスティバル・エクスプレスは列車とともにカナダの各地を回ってライブをするという、その名の通り“列車で移動するフェス”だ。
27日と28日にスタート地点のトロントでライブをした彼らは、5日間かけてウィニペグ、カルガリーを巡行していく。
列車はカナディアン・ナショナル鉄道からチャーターしたもので、寝台車5両と食堂車、ラウンジ等をつなげた特別車両だ。

食事や酒が大量に用意された車内では、四六時中セッションやパーティーが続き、参加したミュージシャンたちは心の底から旅と音楽を楽しんだ。

斬新な発想とミュージシャンの顔ぶれの豪華さから注目を集めたこのフェスだったが、行く先々で彼らに浴びせられたのは「金をとるな」「フリー・コンサートにしろ」という若者たちの声だった。
これは、前年に開催されたウッドストック・フェスティバルが、想定をはるかに上回る観客に対してフリー・コンサート化するという対応をし、それが映画とともに美化されて拡散した影響によるものだ。
2ヶ月後に開催されるワイト島フェスティバルでも同様のトラブルを抱えることとなる。

結局、フェスティバル・エクスプレスは赤字となってしまい、ローリング・ストーン誌からは「100万ドルのバカ騒ぎ」と評された。
映画化するために撮影されていた映像もお蔵入りとなり、時間の流れとともに忘れ去られていった。

その一部始終が映像とともに公に知られるようになったのは2003年。
行方不明になっていたフィルムの半分以上がカナダ国立図書館から発掘されたのだ。
『ザ・ビートルズ・アンソロジー』や『ジミ・ヘンドリックス/バンド・オブ・ジブシーズ』といった映像作品でグラミー賞を受賞した過去のあるボブ・スミートンが監督となって2003年に公開、30年以上の時を経てようやくフィルムは陽の目を見ることとなる。

そこに映っていたのは、移動中の列車内で酒やドラッグに浸りながら音楽に明け暮れる、ステージでは見ることの出来ないミュージシャンたちの姿だった。




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