♪「Sweet Home Chicago」/ロバート・ジョンソン
1937年にロバート・ジョンソンが発表した「Sweet Home Chicago」という歌がある。
ちょっとブルースを聴きかじったことがある人なら、たいがい演奏したことのある“最も有名なブルースナンバー”の一つだ。
エリック・クラプトン、ブルース・ブラザース、マジック・サム、フレディ・キングなどのカヴァーでも知られているこの名曲は、古今東西、数多のステージでセッションされ、様々なミュージシャン達から愛されてきた。
その曲の歌詞で繰り返される“ある部分”にまつわる謎がある。
現在では、ほとんど「Back to the same old place, Sweet Home Chicago」と歌われている部分が、ロバート・ジョンソンのオリジナルバージョンでは「Back to the land of California, To my sweet home Chicago」となっているのだ。
オリジナルを訳すと「カリフォルニアにある、懐かしのシカゴへ帰ろう」となる。
何で?と不思議に思う人も少なくはないだろう。
知ってのとおりシカゴはイリノイ州であって、カリフォルニア州ではない。
この曲を歌おうとしたブルースマン達はみんな困ってしまったという。
オリジナルのままの歌詞で歌ってしまえば、矛盾を抱えたまま歌うと同時に、もしかしたら歌っている自分が観客から無知だと思われかねない。
そこで「the land of California」を「the same old place(昔と変わらぬあの場所)」に変えて歌ったという説がある。
ちなみに近年のエリック・クラプトンは「the land of California」の方で歌っている。
もちろんクラプトンは“この矛盾”を承知の上で、オリジナルのロバート・ジョンソンに敬意を払って歌っているのだ。
では、ロバート・ジョンソンは何でこんな矛盾した歌詞を歌ったのか?
彼は無知でシカゴがカリフォルニアにあると本当に信じていたのか?
それとも単なるジョークだったのか?
答えは「無知」でも「ジョーク」でもない。
実は、カリフォルニア州にもシカゴと言う町があるのだ。
正確にはポート・シカゴ(Port Chicago)という。
地名が示している通りの港町で、サンフランシスコの北東約30kmに位置している。
ここには戦前、弾薬庫を中心とする*米国海軍の大規模な施設があった。
(*現在も海軍の兵器貯蔵施設となっている)
この施設では、第一次世界大戦中多数の黒人が働いていたが、一次大戦後、軍は黒人を大量解雇し、代わりにフィリピン人を雇用するという政策を取った。
しかし1932年に黒人の雇用を再開した。
ただしこのときは、階級の低い職種(調理助手等)に限られ、人数も少数であったという。
この頃、ロバート・ジョンソンの従兄弟(いとこ)がこの軍事施設で働いていた。
ロバジョンもそのことを知っていて「ポート・シカゴの弾薬庫」、あるいは「ポート・シカゴという町」のことは、聞き及んでいたに違いない。
そう、彼が歌ったのは、まさしく“カリフォルニアのシカゴ”のことだったのだ。
略さずに“ポート・シカゴ”と歌っていれば、誤解は生じなかったのであろう…。
ポート・シカゴと云えば、過去に忘れてはならない事故が起こった場所でもある。
1944年7月17日、2隻の輸送艦への弾薬積み込み中に大爆発事故が発生して、数百名の軍人・軍属が犠牲になった。
この事故は一般に “Port Chicago Disaster”(ポート・シカゴ事故)として知られている。余りにも強力な破壊力であったため、実は原爆の誤爆だったのでは?と噂されたほどだった。
♪「Sweet Home Chicago」/ブルース・ブラザース
ところが、それとはまた違う“もう一つの説”が存在する。
ブルースのメッカ、ミシシッピにおいて、当時のシカゴは「金がザクザクうなるところ」というスラングだったという。
そしてカリフォルニア州というのは“ゴールドラッシュ”の土地。
そう考えると、カリフォルニアが“金がザクザクうなる場所”であり、スラング上のシカゴと同じような意味にある。
“フロンティア”という言葉が未開拓分野・地域という意味であり、“金儲けが出来そうな場所”というスラングでもあるのと同様に、“land of California”もそういう意味で使われていたのかもしれない。
日本の文化的共通認識で言えば“銀座”みたいなものだろう。
銀座には、東京の銀座という場所以外に、人が集まり栄えている“にぎやかな場所”という暗喩もある。
「カリフォルニア」と「シカゴ」にまつわる真相は謎めいたまま…この名曲はブルースファンの心を引きつけてやまない。
♪「Sweet Home Chicago 」/ White House All Stars(オバマ大統領、BB キング、バディー・ガイ、ミック・ジャガー、ジェフ・ベック)
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