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死んだ男の残したものは〜鉄腕アトムの主題歌で知られる詩人・谷川俊太郎が書いた反戦歌

2024.11.20

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この「死んだ男の残したものは」という歌は、1965年(昭和40年)に生まれた。作詞は、あの「鉄腕アトム」の主題歌を手掛けた日本を代表する詩人・翻訳家・絵本作家・脚本家の谷川俊太郎(当時34歳)によるもの。


1965年といえば、アメリカがベトナム戦争に本格的軍事介入した年で、海の向こうではビートルズが「イエスタディ」を、ローリング・ストーンズが「サティスファクション」を、そしてボブ・ディランが「ライク・ア・ローリングストーン」をリリース。

日本では、美輪明宏(当時・丸山明宏)が「ヨイトマケの唄」を発表し、加山雄三が「君といつまでも」を大ヒットさせた年でもある。谷川は、その年の4月に東京で開かれる<ベトナム平和を願う市民の会>のために、この詞を書いたのだ。

「明日の市民集会のために曲をつけてほしい!」


谷川が依頼したのは、世界的に知られた現代音楽の作曲家の武満徹(たけみつとおる・当時35歳)だった。無茶ぶりとも言える急な作曲を依頼された武満は、たった1日で曲を完成させたという。さらに谷川は、依頼の際にこんな手紙を添えて渡している。

「メッセージソングのように気張って歌うものでなく、映画『愛染かつら』の主題歌(旅の夜風)のような感じで歌える曲にしてほしい」



武満が仕上げた短調の曲は、日本人の琴線に触れる、切なくも力強いものだった。4月24日(資料によっては22日)のお茶の水の全電通労働会館ホールで行なわれた集会で、バリトン歌手の友竹正則の歌唱によって初めて披露されたという記録が残っている。

ベトナム反戦を訴えるさまざまな団体やグループを結集したこの日の集会で、<ベトナムに平和を!市民文化団体連合>という名称の組織が結成される。

彼らの運動は、既存政党とは一線を画した無党派の反戦運動であり、基本的に「来る者は拒まず、去る者は追わず」の自由意思による参加が原則だった。

そこには労働組合や学生団体などの様々な左翼団体のみならず、学生、社会人、主婦など、職業や社会的地位、保革などの政治的主張を問わず、多くの参加者が集まった。

翌1966年には、名称を<ベトナムに平和を!市民連合>に変更し、略称「ベ平連」で広く知られるようになる。反戦運動の集会のために書かれたこの歌は、その後、日本におけるフォークソングの先駆者の一人として知られる高石ともやをはじめ、小室等、石川セリ、森山良子、倍賞千恵子、デューク・エイセス、カルメン・マキ、アン・サリー、夏木マリ、沢知恵など、ポピュラーからクラシックまで多くの歌手に歌い継がれることとなる。



死んだ男が残したのは、妻と子供。そしてその妻も死んで一人の子供が残り、そしてその子供も、戦争で死んでしまう。一家の大黒柱であり、稼ぎ頭でもあった夫(男)を兵隊にとられた女性と子供たちは、どれほどまでに心細くひもじい思いを強いられただろうか。

この歌が生まれた1965年は、日本の終戦(敗戦)からちょうど20年後で、まだ戦争の傷痕や記憶が遠いものではなかった時代。一家の家長が墓石一つ残せない、女が着物一枚も残せない、まだ幼い子供が親をなくして貧しい日々を過ごす。

先の戦争で多くの人達が味わった悲しみと辛さが、この歌詞の中で繰り返される“残さなかった”“残せなかった”という言葉に込められているのかもしれない。

死んだ子供の残した“ねじれた脚と乾いた涙”とは何を意味するのだろう?

アメリカの本格的軍事介入によって、ベトナムの地では地獄絵が繰り広げられた。ベトナム戦争といえば、地雷、ナパーム弾、虐殺、強姦、そして枯れ葉剤の使用。

この“ねじれた脚”という表現が、聴き手の胸を強烈にしめつけてくる。

谷川は、この歌を作詞する2〜3年前(1963年)に、『鉄腕アトム』の歌を書いている。あるインタビューで明言した言葉がとても印象的だ。

「詩の意味は散文では説明できないんです」


正義のスーパーロボット、科学万能、明るい未来社会。多くの人がアトムに抱いてきたイメージといえば、こんな感じなのかもしれない。

しかし、手塚プロダクション資料室長の森晴路は、「科学礼賛などではなく、むしろ科学万能社会への懐疑といった深遠なテーマが流れている」と話す。

1977年、アトムをめぐって、手塚治虫が感じていた世間との溝を象徴するかのような出来事が起きる。原子力発電のPRにアトムが使われたのだ。

手塚は、原発PRにまで利用されたヒーローに、ある種の悲しみを感じていたという。手塚治虫の長女・るみ子は、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故の後に、こう語った。

「幸福のためにあるはずの科学技術が、人のエゴや欲でゆがめられてしまう。アトムはいつもそのはざまで悩んでいるんです」


この世界からすべての武器がなくなる日はくるのだろうか? 命の尊さを軽視している一部の権力者や“死の商人”を除いては、戦争を望んでいる人なんていない。


小室等「プロテストソング2」


「自選 谷川俊太郎詩集」


「プロテストソング」


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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

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