ローリング・ストーンズとの仕事を皮切りに、ザ・フー、レッド・ツェッペリン、エリック・クラプトン、クラッシュなど、ブリティッシュ・ロックの雄たちを手がけたエンジニア、グリン・ジョンズ。自宅にその電話がかかってきたのは1968年12月のことだった。
リヴァプール訛りの男は電話の向こうで、ポール・マッカートニーと名乗った。
てっきりミック・ジャガーがからかっているだけだと思い、おふざけはやめてくれ、用件は何だと言ったのだが、男は本人だと言い張った。そして、なんとも驚いたと同時に恥ずかしいことに、それは本当にポール・マッカートニーであった。
その時の用件とは、崩壊しかけているバンドを再びまとめ上げようと考えたポールが、「原点に返ろう=Get back」というコンセプトで行うレコーディング・セッションへの参加要請だった。
電話の最後に、ポールはこう言った。
会場はこれから決めるけれど、一風変わった所になると思う。それで、そのアルバムを一緒に作ってくれるかな?
デビュー当時のようにオーヴァー・ダビングを一切行わないアルバムを制作し、そのレコーディング風景を映画に収めようという試みは、求心力を失った4人をつなぎとめるために思い悩んだポールが考えたことだった。
ジョンズは宝くじに当たった気分だったという。
しかし、その仕事は翌年の1月から始まったが、途中から問題が色々生じて、後に悪名高い「ゲット・バック・セッション」と呼ばれるようになる。
ジョンズの仕事で日の目を見たのは、4月11日に発売されたシングルの「ゲット・バック/ドント・レット・ミー・ダウン」だけだった。
ジョンズは1月一杯でそのセッションからは離れていたが、その後も作業を続けていたポールとジョン・レノンからの電話で、仕上げを頼まれた。そこで5月になって、自分が行った以外の録音も含む、マルチトラック・テープの山に取り組んで、なんとかアルバムを完成させた。
そして7月にはロスアンゼルスのスタジオで、スティーブ・ミラー・バンドとレコーディングしていた。その仕事の最中に親しくなったのが、ローリング・ストーン誌の創業者であるヤン・ウェナーだ。
オールマン・ブラザーズ・バンドのレコーディングを頼まれたジョンズが、打ち合わせのためにジョージアに向かった時、ヤンも同行することになった。バンドがまだ荒削りだったので、ジョンズはアルバムを作れる状態にはないと判断したが、デュアン・オールマンと意気投合して明け方まで語り合ったという。
次にヤンとともに向かったのはニューヨーク。飛行機の中ではヤンが一生懸命にボブ・ディランのインタビュー原稿を仕上げていた。マスコミを避けていたディランが数年ぶりに受けたインタビューは、ヤンにしかできない仕事だった。
ジョンズがニューヨークに着いて空港の手荷物受取所を抜けて歩いていると、目の前に突然ディランが立っていた。ヤンに紹介されたディランから、ジョンズは録り終えたばかりのビートルズのアルバムについて尋ねられた。
それから長年にわたるストーンズとの仕事を褒めてもらったのである。
興奮した私はお返しに、彼の仕事に私たち皆がどれほど影響を受けているのか、一気にまくし立てた。
するとディランが言った。ビートルズとストーンズと一緒にアルバムを作ってみるのも面白いと思っているんだけど、彼らが興味を示すかどうか、確かめてもらえないかな?
イングランドに戻ったジョンズは各人に電話を入れて、賛同するか否かを自分で確かめてまわった。
賛同したのはキース・リチャーズとジョージ ・ハリスン。非現実的すぎるけどディランのファンだからやってもいいという返事をもらった。中間派がリンゴ・スター、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン、他のみんながその気ならいいんじゃないかという反応。
残りの3人は消極派と強い否定派だった。
ジョンはきっぱりノーとは言わなかったものの、さほど引かれない様子。ポールとミックはいずれも、冗談じゃないという返事だった。今でもよく、もし実現していたらどうなっただろう、と思うことがある
その返事をディランに伝えた時のことは、残念ながら自伝に何も記されてはいなかった。
ラガーディア空港での邂逅から6週間後、ワイト島フェスティバルのライブをレコーディングしてほしいと頼まれて、ジョンズはディランとの初仕事を行っている。
ところで、苦心してまとめ上げたビートルズの「ゲット・バック・セッション」だったが、完成したテープはお蔵入りにされてしまい、バンドも1970年4月に正式解散した。
やがてジョン・レノンによってフィル・スペクターの手に託されたテープは、オーヴァー・ダビングなどの加工を経て、その年の5月8日にビートルズ13枚目のアルバム『レット・イット・ビー』としてリリースされた。
それについてジョンズは、自伝にこう書き記している。
スペクターはそこら中にへどをまき散らし、あのアルバムをいまだかつて聴いたことがないほど甘ったるいシロップ漬けの糞みたいな代物に一変させてしまった。私のマスターテープは、まあそれが妥当だったのだろうけど、EMIのテープ庫行きとなった。
ちなみにEMIのテープ庫行きになったグリン・ジョンズによる「レット・イット・ビー」は、今はYouTubeで聴くことができる。
(注)文中のグリン・ジョンズの発言は2014年11月に発表された回顧録「Sound Man」(日本語版「サウンド・マン 大物プロデューサーが明かしたロック名盤の誕生秘話 」シンコーミュージック・エンタテイメント)からの引用です。
そのなかでジョンズはアップル社の屋上で行われた通称「ルーフトップ・コンサート」の発案者だったことも明かしています。
<参照コラム「ほんとうに最後のステージとなったビートルズのルーフトップ・コンサート」>

サウンド・マン 大物プロデューサーが明かしたロック名盤の誕生秘話
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