アメーバをイメージさせるイラストが描かれたアルバム・ジャケット──決まったカタチを持たないその様は、ジャンルに囚われず、またロックの文脈にも寄りかからず、完全にオリジナルな表現を探求する坂本慎太郎の、自由でいてストイックな音楽観をそのまま表しているようにも見える。
自身がボーカル&ギターを務め、20年以上活動してきたロック・バンド〈ゆらゆら帝国〉を解散後、2011年に自らレーベルを立ち上げてソロ活動をスタートさせた坂本慎太郎。〈TAP the POPが選んだ 2010年代のベスト・アルバム50〉にも選出させてもらった『幻とのつきあい方』(2011年)、『ナマで踊ろう』(2014年)に続く3作目のソロ・アルバムが『できれば愛を』だ。
前作同様、菅沼雄太(ドラムス/中納良恵、ハナレグミ、ネタンダーズ 他)、AYA(ベース/OOIOO)からなるトリオ編成を軸に、ゆらゆら帝国から客演している西内徹(サックス&フルート)、今回初参加となる石橋英子(マリンバ)らがゲストプレイヤーとして参加。エンジニア/マスタリングはこれまで同様に中村宗一郎が担当している。デストピアで鳴り響くムード音楽のような、どこか無機質な印象も感じさせた前作『ナマで踊ろう』のサウンドに比べると、レコーディング・スタジオの部屋鳴りなども残した(温度の低さを一定に保ちつつ)うっすらとバンドの躍動感をも感じさせる隙間だらけのグルーヴがクセになる。
たとえば「できれば愛を」で聴ける極力音数を少なくしたブレイクビーツのようなリズムの上で浮遊するスティールギターや女性コーラスの得も言われぬ心地よさ。裏打ちを排除したレゲエのようにも聴こえる「べつの星」の斬新さ。マリンバの音色が踊るディスコ調なビートに乗せた歌詞から坂本ならではのロック観が窺える「マヌケだね」……ゆったりとずっしりとしたドラム&ベースのグルーヴと、その風景をグニャリと捩じ曲げるような坂本のギターの音色と歌声が折り重なって生まれる不定形なロック。そこに謳われるのは、どうしようもないぐらいに閉塞した世の中でなんとか生きながらえるために必要な根本的なポジティヴさ、そしてミクロの世界までクローズアップして見えてくる原始的な〈愛〉のカタチだ。
正気でいたいのに 正気じゃ難しい
大きな声ばかり あふれているよね
かたくなに閉じた お前の心
今はまだ一人で 夢中だとしても
いるよ
いるよ
いるよ
いるよ
いる
(「いる」より)
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坂本慎太郎「できれば愛を (Live In-Studio Performance)」 MV