『エンパイア・レコード』(Empire Records/1995)
人によって思い入れのある時代はそれぞれ。特に自分のことだけ考えていればOKだった青春期(これも人によっては違うけど、ここでは10代半ば〜20代半ばに設定)に聴いた音楽・観た映画・読んだ小説は、40代や50代を過ぎた頃に再会したりすると、強烈なノスタルジーに包まれることがある。同世代が集まれば、一晩中盛り上がること必至だろう。
今回たまたま『エンパイア・レコード』(Empire Records/1995)を観て、1990年代半ばの光景や空気が突如として蘇ってきた。あの時代の音楽といえば、グランジから始まったオルタナティヴ・ロック、オアシスらのブリット・ポップ、グリーン・デイらのメロコアがあった。
他にもキャングスタ・ラップや渋谷系やコムロ系も盛り上がっていたし、コギャルたちが若者文化の主役になった。プレステのゲーム人気やタランティーノ映画の登場もこの頃。カルチャー面だけ切り取ると、街へ繰り出せばカラフルな色気やちょっと危ない体臭のようなものを感じられた時代。ネットやSNSに覆われる以前の出来事だ。
あの頃、映画を観る手段としては、劇場に行くか、レンタル店で借りるか、TVの深夜放送で眺めるか、そんな程度だったけど、ノルタルジーを感じるのは老若男女が知るメジャー大作より、「B級」「低予算」と呼ばれる青春・コメディ・ミステリー系のように思える。
とにかく、ほとんど特定の世代しか観てないはずの、しかも当時はそんなに愛着のなかった映画と再会して、なぜかあの時代の思い出が広がっていったという不思議な体験。あなたにとってそんな映画はありますか?
『エンパイア・レコード』は、『タイムズ・スクエア』(1980)や『今夜はトーク・ハード』(1990)で知られるアラン・モイル作品。「青春+音楽」を得意とする監督。今回はレコード店を舞台にそこで働く店員たちの青春をグラフィティしていく。
ヒロインの一人にリヴ・タイラー。ご存知、父はエアロスミスのスティーヴン・タイラーで、その可憐なルックスでコギャルたちにも人気があった女優。もう一人はレネー・ゼルウィガー。翌年の『ザ・エージェント』(1996)でブレイクし、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)が日本でもヒットした。
(以下ストーリー)
アメリカの田舎町にある「エンパイア・レコード」は、1959年の創業で深夜零時まで営業。地元の若者たちにとって情報収集や音楽体験で欠かせない場所になっている。
そこで働く店員たち。優等生のコリー(リヴ・タイラー)と親友のジーナ(レネー・ゼルウィガー)は、「コリーの処女を誰に捧げるか?」で忙しい。最有力候補は70年代のアイドル歌手レックス・マニングで、新曲のプロモーションとサイン会で何と彼が今日店にやって来る記念日!
そんなことは夢にも思わず、コリーに恋する画家志望のA.J.は、告白のタイミングを今か今かと待ちはかっている。相談を受けた雇われ店長のジョーは上の空。それもそのはず、昨日の売上金9000ドルと閉店係のルーカスが戻ってこないのだ。ルーカスは売上金を持ち出し、カジノで全額すってしまっていた。それには深刻な理由があった。
遅刻したデブラは一匹狼的な女の子。いきなり髪を切ってスキンヘッドになって、一同唖然。こちらも悩みがあるらしい。インストアイベントに万引きに大騒ぎの中、店のオーナーがやって来た。実は大手チェーンに売却する計画を進めていて、それに反発するジョーは店の個性を守り抜くための金の工面に苦労していた。それを知ったルーカスは、金を倍増させようとして失敗したことが判明。
しかし、店を救うためには消えた金やそれ以上の資金が必要だ。そこで店員たちは一致団結し、チャリティーライヴを開催することを思いつくのだが……。
サウンドトラックにジン・ブロッサムズ、クランベリーズらの名前がある。クランベリーズの女性ヴォーカルはドロレス・オリオーダン。アルバム『Everybody Else Is Doing It, So Why Can’t We?』(1993)や『No Need to Argue』(1994)が世界的にヒットしたアイルランドのロックバンド。代表曲「Dreams」を聴いたことがない人はいないだろう。彼女は2018年1月15日に46歳の若さで亡くなった。その事実を知って何だか寂しくなった。
予告編
エアロスミスの「Crazy」(1994)のMVにも出演していたリヴ・タイラー
『エンパイア・レコード』
サウンドトラック「エンパイア・レコード」
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『エンパイア・レコード』パンフレット
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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