8月になり、各地で開催される盆踊り。子供の頃に、近所のおじいさん、おばあさんが、楽しそうに「東京音頭」を踊っていた姿を、今でもよく覚えています。「ドラえもん音頭」や「オバQ音頭」の方が楽しいのに・・・と思いながら音頭の輪を眺めていましたが、大人になるにつれ、「東京音頭」を口ずさんでしまうことがあります。一体、「東京音頭」は、多くの人を惹きつけるのでしょうか?歴史を紐解きながら、その魅力に迫ります。
前身は、地元愛たっぷりの「丸の内音頭」
「東京音頭」はもともと、「丸の内音頭」という丸の内界隈を活性化させるための、いわゆるご当地ソングとして作成されました。昭和恐慌などで景気が悪い時代に、日比谷界隈の洋食店や料亭などの店主が、多くの人を活気づけたいという思いを込めて、丸の内の情景を音頭にしました。この時に制作を依頼されたが、ビクター。当時、専属作曲家として所属したばかりの中山晋平が作曲しました。
リズムは、「東京音頭」とまったく同じですが、歌詞には丸の内界隈の情景が描かれていて、なんだか少し不思議な印象もありますが、こちらがオリジナルです。
できあがった音頭は、丸の内界隈での盆踊り大会で使用され、連日多くの人が訪れて大盛況でした。地元の盆踊りが出来たうえ、街も活性化されたので、嬉しいことづくしの「丸の内音頭」だったのでした。
歌詞を直して全国へ販売
「丸の内音頭」の大成功を見て、翌年に歌詞を”東京”にして発表されたのが、「東京音頭」です。ラジオの他にも、全国の盆踊り大会に出向いて「東京音頭」をかけてもらうようにお願いして回ったビクターのプロモーションも奏功して、一気に全国区に広がります。
おなじみの1番の歌詞の続きには、東京の街の情景が描かれています。
発表から82年が経ちますが、今では盆踊りだけではなく、さまざまなシーンで「東京音頭」を耳にします。全国区の音頭ではありますが、やはり東京への愛が詰まった歌詞です。1番の「花の都の花の都の真ん中で」は、東京出身者にとって鼻高々の歌詞です。地元への愛着を感じるからこそ、東京ヤクルトスワローズやFC東京が応援歌にしているのではないでしょうか。
東京ヤクルトスワローズ「東京音頭」
進化するから歌い継がれる
今年の7月8日に、岡村靖幸が「東京音頭-TOKYO RHYTHM」をシングルとして発表しました。ボーカルは、民謡歌手の木津茂里が担当し、プロデュースとほとんどの楽器の演奏を岡村靖幸が担当しています。音頭独特のホッとするようなリズムに、ダンスミュージックの要素がプラスされた「東京音頭」は、”東京”というより、”トーキョー”という表記が似合うように感じます。日本人と外国人の女の子が着物を着ている可愛らしいジャケットからも、新しさを感じる作品です。
このように、「東京音頭」は多くのアーティストが、それぞれの解釈でカヴァーをしています。
例えば、野宮真貴はピチカート・ファイブ時代の「東京は夜の7時」を音頭調にアレンジして歌ったこともあります。「東京音頭」をオマージュしたものです。
夏のご挨拶〜新・東京音頭
また、2008年に、八代亜紀はジミー・トーガン(スヌープドッグのトラッカー)がリミックスを手がけた「東京音頭」を歌っています。そして、初音ミクに歌わせる人もいるなど、原曲のテンポやリズムが変化しても、多くの人に愛され続けているのです。
初音ミク
今年も盆踊りの季節がやってきました。音頭特有のリズムを聞くと、つい手拍子を打ち、合いの手を入れたくなります。「東京音頭」は踊れなくても、リズムは体に染み込んでいて、耳にするとなんだか楽しい気分にもなります。
知らず知らずのうちに、身近な存在となっている「東京音頭」は、これからも新しい解釈が加えられ進化を続け、歌い継がれていくことでしょう。
(石井由紀子)
参考文献:
日本大学商学部 紀要『商学研究』第31号
【論文】「東京音頭の創出と影響 ―音頭のメディア効果―」 刑部芳則
http://www.bus.nihon-u.ac.jp/laboratory/pdf/OsakabeYoshinori31.pdf