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ジェリー・ウェクスラーに導かれて生まれたゴフィン&キングの「ナチュラル・ウーマン」

2024.02.09

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2015年、ケネディ・センター名誉賞を受賞したキャロル・キング。

毎年アメリカの芸術や文化へ貢献した人に送られるこの賞は、12月にホワイトハウスで大統領から直々に賞を授与される。そしてワシントンD.C.にあるケネディ・センターでは受賞者の栄誉を讃えたパフォーマンスが披露され、年末にはその模様が全米でテレビ放映されるのだ。

そのパフォーマンスでアレサ・フランクリンが歌う「ナチュラル・ウーマン」の映像がインターネット上でも大きな感動を呼んで話題となった。


1942年2月9日生まれのキャロル・キング、そして同年3月25日生まれのアレサ・フランクリン。ともに今年74歳を迎えるふたりにとってもこの日は、忘れられない一日になったに違いない。
大きな喜びをあふれんばかりに全身で表す少女のような、キャロルの姿が印象的だ。

1959年、3歳年上のジェリー・ゴフィンと結婚したキャロルは、翌年にふたりでシュレルズに「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」を作ると、この歌が全米チャート1位の大ヒットとなった。
その後もジェリーが詞を書き、キャロルが作曲した歌が次々とヒットし、若きカップル“ゴフィン&キング”の名は、優れたソングライター・チームとして有名になった。

しかし1964年、ふたりはテレビで『エド・サリヴァン・ショー』に出演したビートルズを見てから、世の中が変わったと感じていた。
ローリング・ストーンズやビートルズの曲がチャートを駆け上がり、ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれた彼らの曲はアメリカの曲のカヴァーもあるものの、ほとんどが自作曲だった。

ビートルズが『エド・サリヴァン・ショー』に登場した翌日、アメリカ合衆国下院議会は公民権法を通過させた。ふたりも公民権運動に関わる中、ジェリーの書く詞にも少しずつ社会的関心度が増していった。

そして反戦運動も高まる中、ボブ・ディランをはじめとするフォーク歌手によるメッセージ・ソングがポップ・チャートを席巻しはじめた。そのことが、曲作りを生業としていたふたりの生計にも徐々に影響が及び始め、もはや自分たちの曲は必要とされなくなったと感じていたのだ。

1967年のそんなある日の午後、ジェリーとキャロルがレストランから駐車場に向かってブロードウェイを歩いていた時だった。黒塗りのリムジンが彼らに横付けし、後部座席のウィンドウがスーッと下りた。顔を出したのは、アトランティック・レコードのジェリー・ウェクスラー。

「アレサ向きの大ヒット曲を探しているんだ。「ナチュラル・ウーマン」という曲を書いてみない?」


タイトルを聞いただけでアイデアが浮かんだと言うふたりが夢中でつくった「ナチュラル・ウーマン」は、翌日にはピアノとヴォーカル入りのデモを録音してウェクスラーのもとへ持っていった。

数日後、レコーディングが完成したからとウェクスラーから呼び出され、アレサの歌う「ナチュラル・ウーマン」を初めて聴いた時に、その素晴らしさにキャロル・キングは言葉を失ったという。

アレサ・フランクリンは自身でも作曲をするアーティスト、その彼女に自分たちの曲を歌ってもらえたこと、そしてクイーン・オブ・ソウルとして最高レベルでの表現が出来る彼女に歌ってもらえたということが、キャロル・キングにとっては大きな喜びだったようだ。

翌年の1968年にキャロルは、ジェリーとの約9年間の結婚生活にピリオドをうつのだが、1970年に録音されたキャロル・キング自身のアルバム『つづれおり』には、この「ナチュラル・ウーマン」もセルフ・カヴァーとして収録された。

それはオリジナル・デモにそった素朴なアレンジで、アレサのヴァージョンよりは少しスローだ。
ジェリー・ゴフィンが書いた歌詞の、愛する人に対する女性の一途な思いをピアノで弾き語るキャロル・キングの歌は、恋する女性の心にそっと寄り添うようなとてもパーソナルな味わいがある。

朝降る雨を眺めていても
かつて何も感じるものはなかった
また一日を暮らさなければならないとわかると
ああ、とてもうんざりしたわ
あなたに出会うまで、人生はとてもつれなかった
だけどあなたの愛こそが、私の心のやすらぎへの鍵だったの

だってあなたは私を
あなたは私を
あなたは私をありのままの女でいさせてくれるから



なお「ナチュラル・ウーマン」はジェリー・ウェクスラーのアイデアが導いてくれたとして、彼に敬意を払うためにクレジットにはウェクスラーの名前も併記されている。

(ミュージックソムリエ・阪口マサコ)

参考文献:「キャロル・キング自伝 ナチュラル・ウーマン」キャロル・キング著 松田ようこ訳 河出書房新社

キャロル・キング『つづれおり』
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