1950年代や60年代のロックやブルースはカッコいい。無骨で、シンプルで、一聴して耳を奪われるような力強さがある。
例えば、ビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト」におけるジョン・レノンのシャウトを聴けば、誰でも自然と「カッコいい」と言ってしまうだろう。
しかし19歳の僕は、それらのロックやブルースを、日常的に聴いているわけではない。やはり50年前の音楽よりは、最近の邦楽や洋楽の方をよく聴く。
もちろん、それは音楽の良し悪しの問題ではない。最近の音楽の音の方が、どこかしっくりくるのだ。言うならば、現代的なセンスというものがそこにはあるのかもしれない。
そんななかで、60年代のロックやブルースを現代的な音のセンスで、表現しようとするバンドがいる。それがGLIM SPANKYである。ボーカルの松尾レミとギターの亀本寛貴の二人で活動している、長野県出身のバンドである。
2014年にメジャー・デビューした二人は、今年になって脚光を浴び始めている。新曲「怒りをくれよ」が人気アニメ「ONE PIECE」の映画版主題歌に抜擢され、同曲を収録したアルバム「NEXT ONE」はオリコンのトップ10入りを果たした。
この「怒りをくれよ」という曲の衝撃がとてつもないものだ。曲を構成するメロディは2つしかなく、いたってシンプル。さらに松尾レミのブルージーなしゃがれ声とパンチのある日本語詞、そして亀本寛貴のうねるようなギターリフによって、一度聴いたら忘れなれない和製ロックンロールとなっている。
手法としては60年代のロックやブルースに近いものがあるのに、全く古臭さを感じさせない。むしろ新しいものに感じさせる。その結果「怒りをくれよ」はお茶の間にも浸透し、GLIM SPANKYは今や数多くのテレビ番組に出演し、アルバムも好セールスを記録している。
GLIM SPANKY は元々、高校の文化祭のために結成されたバンドだという。その時にカバーしたのは日本のロックバンド、BUMP OF CHICKENだった。
そもそもボーカルの松尾の両親は音楽マニアで、幼い頃から様々な音楽に触れてきた。アメリカン・ロックやフォークソングが流れる家庭で、そこで無意識のうちにルーツになっていくロックやブルースに出会ったのであろう。
そこから音楽に目覚めていった彼女は他の音楽好きの少年少女と同じように、YUKIなどのJ-POPやBUMP OF CHICKEN のような邦楽ロックを聴いて育った。
そして、それらの音楽のルーツを探っていくうちに辿り着いたのが、ザ・フーやビートルズなのである。
TSUTAYAにCDを借りに行ったら、家に同じCDがあったというエピソードからわかるように、幼い頃から聴いていたものと再び「出会い直した」という表現が正しいのかもしれない。
そこから60年代のロックやブルースにのめり込んでいった彼女は、自分でもロックやブルースを表現したいと思い始める。その時に範をとったのが、アメリカのロックバンドのホワイト・ストライプスとブラック・キーズだという。
彼らはすでに現代的な感覚のロックやブルースを鳴らし、欧米で成功を収めていた。特にホワイト・ストライプスが登場した時には「ロックンロール・リバイバル」という一つのムーブメントが起こったぐらいだ。そんなロックバンドを目標にしながら、自分たちの音楽を表現していった。
J-POPを聴いて育った感性でロックンロールとブルースを表現した音楽が、多くの人々に受け入れ始めているということは、冒頭に述べた通りだ。
GLIM SPANKYの持つ、YUKIもバンプもザ・フーも同じ「いい音楽」として捉える感覚は、iPodやウォークマンでたくさんの音楽を持ち歩き、気分にあった音楽を聴く現代人の発想と共鳴するのかもしれない(今はもうサブスクリプションの時代である)。
『NEXT ONE』収録曲を見渡しても、歌謡曲な哀愁とアデルのようなイギリス的な情緒を感じさせる「闇に目を凝らせば」。タイトルからしてルー・リードをオマージュしながらも、王道の日本語ロックに仕上がっている「ワイルドサイドを行け」。
幅広い音楽からの影響を感じさせる楽曲が多い。それでかつGLIM SPANKYにしか鳴らせない音楽をやっているという点において、彼女たちのはかり知れないポテンシャルがうかがえる。
そんな GLIM SPANKYの目標は「日本語ロックでの世界進出」であるという。日本語でロックを始めたはっぴいえんどや、それを拡大して浸透させたサザンオールスターズでさえ叶えてはいない夢を、これからが成し遂げていくのかどうかが楽しみである。
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