ジャニス・ジョプリンの遺作となったアルバム『パール』。その1曲目を飾っていた「ムーヴ・オーヴァー」は彼女の代表曲のひとつとして知られる。
終わったんだってあんた、言ったわよね
もう、私たちは終わったんだって
なのにどうして私のそばをうろついてるの
ねえ、どっかへ消えてよ
自分から別れておきながら、なぜかそばをうろついている元彼に対して、ジャニスは「Move Over」という言葉を言い放つ。
「ムーヴ・オーヴァー」は〈吐きすて〉の歌の典型と言える。
この歌が発表されて40年以上が過ぎた2014年。ロックとブルースを基調にした男女二人組からなるロック・ユニットのGLIM SPANKY(グリムスパンキー)が、CMでカヴァーして話題になった。
というのもCMから流れてくる歌声がジャニス・ジョプリンのハスキー・ヴォイスと似ていたので、ジャニスの歌だと思い込んだ人も多かったからだ。
それを歌っていたのが平成生まれで、当時はまだ22歳の松尾レミである。
しかし「ジャニスの再来!」などという声に対して松尾レミは、あっさり大人たちの期待をかわして突き放す。
私がたどってきた音楽、ルーツの中にジャニス・ジョップリンはいないんです。ジャニスになりたいわけでもないし、目指してもいない。CMで歌わせていただいたのは光栄ですし、そのおかげで注目が集まったのは、もちろんうれしいんですけど、ね。
そんなクールさを持つ一方で、オリジナル曲の「褒めろよ」を聴けば、無骨とも言えるような手応えがあるロックは、ジャニスとも碓かに通底するものが感じられる。
人気アニメ「ONE PIECE」の映画版で使われた「怒りをくれよ」もそうだったが、GLIM SPANKYは21世紀に突如として日本に現れた〈吐きすて〉の歌の系譜に連なるバンドだ。
ロックもパンクも身体の中から湧き起こる初期衝動を、そのまま吐き出すことで世界に通じた面もある。
GLIM SPANKYの目標は「日本語ロックでの世界進出」であるという。
世界がぐっと近づいてきた現在ならば、不可能ではないと期待したい。
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