個人情報の流出やフェイクニュース、SNSの拡散、炎上、
小さな画面の中で今、人々は右往左往している。
AI(人工知能)や、車の自動運転の開発、
とどまるところを知らない進化、
コンピューターに翻弄される私たち人類。
いっそのこと、
ロボットにでもなってしまった方が楽になれるだろうか。
ポップなメロディーにのせて、かもめ児童合唱団が楽しそうに歌っているが、なんだかSF的で少し薄気味悪くも感じられる。この「あなたもロボットになれる」を作ったのが、坂本慎太郎だ。2014年に発売された彼のソロ・アルバム『ナマで踊ろう』の中では、坂本自身がヴォーカルをとっている。
日本国内だけでなくヨーロッパでもカルト的人気を博したロックバンド、ゆらゆら帝国の中心人物で、ヴォーカル兼ギタリストだった坂本慎太郎。2010年にバンドを解散した翌年より、3枚のソロ・アルバムをリリースしている。
その中でも、特に社会風刺の色合いが強い内容となっているのが、2014年にリリースされた、2枚目となるソロ・アルバム『ナマで踊ろう』だ。
ゆらゆら帝国時代から、日本語で歌うことにこだわってきた坂本は、その独特なユーモアのセンスとシュールな歌詞にも人気がある。
しかし、ここまで直接的に社会風刺の強い歌詞が際立つ作品は珍しい。
今回は作品をSF的な設定にしたことによって歌詞を ―深読みできないぐらいストレートだと思うんですけど― ストレートに言っちゃったほうが、単純に面白い、というのと、あと…意外と生々しくないっていうのを発見して。僕個人の叫びに聞こえないっていうか。歌詞を単純化することによって、CMのコピーとか標語みたいな感じになる気がしたんですよね。それは強烈だし、なんか面白いなと。今まで自分がとってきたスタンスと矛盾するとは思わなかったし。
ここに語られるSF的な設定というのは、遊園地やテーマパークなど、人工的な楽園を作ろうとした人達が全員いなくなった後に、その魂だけが辺りに漂っているような、そこでムード音楽だけが鳴り響いているという、まるで星新一の小説にでも出てきそうな世界観だ。
坂本自身の言葉によると、「人類が滅亡した地上で、ハトヤの CMがただ流れている、みたいなイメージ」だという。
また坂本は、規模の大きいロック・コンサートに見られる“一致団結・連帯”といった宗教的なノリを苦手に感じていたという。そういうのが嫌でバンド(ゆらゆら帝国)を始めたはずだったのに、気がつくといつのまにか巨大なステージの中心に自分がいて、こんなはずじゃなかったという気持ちがよぎった、とも語っているのだ。
坂本が感じた、全体主義的なものに対する抵抗、宗教的な陶酔や熱狂といったものへの恐怖から生まれた歌が、まさに「スーパーカルト誕生」だろう。
まるで「帰ってきたヨッパライ」を彷彿させるようなヴォコーダーを使用し、本来ならば楽園的な響きのするスティール・ギターが、時折不穏な音を揺らして、坂本自身が敬愛する水木しげるの世界を想起させるような恐ろしい世界を表現している。
それらが聴いているうちに恐怖を超え、黒いユーモアに包まれて、時には痛快に感じられるのだ。
発売から4年がたった現在の世の中でも、ある種の不気味さが強烈な皮肉を伴って響いてくるのが、このアルバムの魅力だ。
それは、坂本慎太郎が持つ独特のセンスによるところも大きい。
坂本自身は、社会的メッセージを音楽で表現しようとは思わないと語る。
しかし、「メッセージ的なものが何もない音楽も、今どうなんだろうと思う」とも語っているのだ。
ただ楽しければいいとか、オシャレだからいいとか…そういうのを今作ろうとは思わないですね。
参考サイト:Real Sound 2014年 坂本慎太郎 2ndアルバム『ナマで踊ろう』インタビュー