1967年11月5日に「朝まで待てない」でデビューしたザ・モップスは、日本で最初にサイケデリック・サウンドを打ち出したバンドだ。
モップスはは1980年代になって、海外で日本のグループ・サウンズが注目された時、ガレージ・ロックのマニアによって発見されている。なかでも人気が高かった「ブラインド・バード」は、長らく再発もCD化もされないまま、40年以上にわたって幻の曲になっていた作品だった。
著書「作詞入門 阿久式ヒットソングの技法」の中で、阿久悠はレコーディングするまでの段階ではA面だったと述べている。
曲が誕生した発端は、その年の夏にアメリカ進出を掲げて、ザ・スパイダースが渡米してサンフランシスコを訪れたことだった。
1965年にスパイダースを売り出したホリプロダクションの社長・堀威夫は、なかなか売れなかったことから一発逆転を賭けて、ヨーロッパやアメリカでデビューさせようと考えた。たとえヒットしなくても、ヨーロッパやアメリカでレコードを発売したと言えば、日本でのプロモーションにも利用できる。
そこで1966年11月にヨーロッパで「SAD SUNSET」を発売し、オランダやフランス、イギリスとプロモーション・ツアーを敢行した。
〈参照コラム・1966年にザ・スパイダースが出演したイギリスの人気テレビ番組「レディ・ステディ・ゴー」〉

1967年にはアメリカでもシングル盤を出すことになり、堀はスパイダースを連れて6月22日から7月5日まで渡米した。ハワイのホノルルとアメリカ西海岸のロサンゼルス、それにサンフランシスコをプロモーションでまわる旅だった。残念ながらその試みは失敗に終わってしまうのだが、堀はしっかりとサイケデリックというお土産を持って帰ってくる。
ビートルズを日本に呼んできた永島達司さんに「サンフランシスコのフィルモア・オーディトリアムで今妙な音楽が流行ってるから見て来いよ」と言われスパイダース全員を連れて見に行ったんです。ビル・グラハムっていうのがプロデューサーだった。ジェファーソン・エアプレインなんかがでていた。なんか真っ暗な中で、フロアが蛍光塗料か何かで光っていて、異様な雰囲気だった。(大学史紀要第21号「堀威夫氏インタビュー」明治大学資料センター)
帰国した堀は、サイケデリックというイメージが、GSで売り出そうと準備中のバンドのモップスに当てはまるのではないかと思って、重宝していた放送作家の阿久悠に相談した。これが作詞家としてのデビュー作「朝まで待てない」につながっていくのだが、阿久悠は当時を振り返ってこう記している。
サイケデリックなんていっても、それはどんなものなのか、LSDを飲んでみなければわからない。ぼくも飲んだことがないし、聞く人だって、アメリカのように麻薬を回し飲みしながら聞くなんてことはありえない。すると、サイケデリックといってすぐに考えるのは、なんとなくひょうたん型の原色が混じり合っている感じ、というだけでしかない。だから、目をつぶったときに、真っ暗な中から真紅のバラがパッと浮かんでくる、といったイメージだけで、「ブラインド・バード」を書いた。
イメージとしてはサイケデリックに近いものができたし、”しあわせのうちに私を殺してほしい”という歌詞も、それまでの歌謡曲にはないパターンだという自信はあった。しかし阿久悠は書き終えた後で、大ヒットというわけにはいかないだろうと思ったという。
サイケデリックというキーワード自体が、当時はまだ一般的ではなかったのである。これでは東京や大阪といった都会のなかで、しかもごく一部の人にしか受け入れられないだろうと覚悟した。
ところがいざレコードを出す段になって、B面用につくった曲とどっちが売れるだろうかという話が持ち上がった。そして「朝まで待てない」のほうが、”いわゆる歌らしい”という判断から、あっさりA面とB面が逆転したのだ。
阿久悠は、A面がサイケデリックで一般の人にわかりにくいので、B面はもう少しわかりやすいものにしようと思って書いたという。
アニマルズの「悲しき願い」か、「朝日のあたる家」みたいな感じで、わりに絶叫できる歌にしようではないか。そうしてできたのが「朝まで待てない」という、荒っぽい感じの歌である。
その結果、「朝まで待てない」はまずまずの売れゆきを記録して、レコード会社からヒット賞をもらうことができた。生涯に5000曲にもおよぶ歌を書いて、後に怪物とまで称された偉大なる作詞家が、こうしてデビューを飾ったのである。
しかし、「ブラインドバード」は発売からまもなくして、放送局の自主規制によって「めくら」という単語が使えなくなった。そして海外ではガレージパンクのコンピレーション・アルバムに、次々に海賊版として収録される一方で、日本ではレコードが市場から消えてしまった。
その後もCD化されないという状態が長く続いていたが、2014年になってモップスのファースト・アルバム『サイケデリック・サウンズ・イン・ジャパン』に収録された。今ではストリーミング配信で、誰もが手軽に聴くことが可能になっている。
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