20世紀後半は、ロックとカントリーの間には、歴然とした境界線があった。
そうした時代だったにもかかわらず、ジョニー・キャッシュが立ちはだかる壁を越えて活躍し、両方のファンから一目置かれてきたのは、表現者としての存在自体が強烈なメッセージを放っていたからだ。
常に反骨の魂を持ち続け、弱者の側に立って歌い続ける姿勢が、多くの人たちから敬意の念を集めたのだ。
ジョニー・キャッシュは1980年、最年少(48歳)で「カントリーの殿堂」入りを果たした。そして1992年には「ロックの殿堂」に選出され、「カントリーの殿堂」と「ロックの殿堂」両方に選ばれた、最初のアーティストとなった。
晩年にはブルース・スプリングスティーン、ニール・ヤング、エルヴィス・コステロといった多くのロック・アーティストたちからオマージュを捧げられ、ジョー・ストラマーやU2とは時代を越えて、素晴らしいコラボレーションを残している。
トム・ウェイツがこんな明言を残している。
ジョニー・キャッシュがラジオから流れてきたら、誰も局を変えたりしない。その声、その名前はすべての境界線を越える。それは誰もが信じられる声なのだ。
“マン・イン・ブラック”とも呼ばれたキャッシュは、いつでも黒い服を身に纏ってステージに立っていた。ステージの上だけでなくオフステージでも、黒い服を好んで着ていたと言われている。
どうして俺がいつも黒装束なのかって思っているんだろう
いつも黒い色しか身につけず
陰気くさいのはどうしてと訝っているんだろう
その名も「Man In Black」という歌には、キャッシュの生き方や歌への想いが正直に綴られている。
俺は黒を着る 貧しく打ちのめされた人々のため
絶望の中、町の飢えた側にいる人々のため
俺はそいつを着る 長い間罪を償ってきた受刑者たちのために
彼らは時代の犠牲者なのだ
そして実際に刑務所でのコンサートにも数多く出演し、囚人たちから何度も拍手喝采を受けていた。それは有名なフォルサム刑務所におけるライブ・アルバム『At Folsom Prison』(1968年)や、『At San Quentin』(1969年)で確認できる。
歌詞に込めたその強烈なメッセージ性を目に見える形で表していたのが、黒い服を身にまとい、毅然として生きる姿だった。
Man In Black [Analog]
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