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フリートウッド・マック〜二組のカップルの破局から生まれた歴史的ベストセラー『噂』

2024.02.04

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フリートウッド・マックと『噂』


それは、新しいメンバー探しをしていたミック・フリートウッドに、プロデューサーのキース・オルセンが自分が手掛けた無名デュオのアルバム『Buckingham Nicks』を聞かせたことがすべての始まりだった。

ミックはその片割れであるリンジーをすっかり気に入ってしまい、自らのバンドであるフリートウッド・マックに勧誘する。しかし、リンジーは「スティーヴィーと一緒なら参加したい」ことを申し出た。二人は貧乏生活を共にする恋人同士であり、音楽上の大切なパートナーだったのだ。曲を途中から作るスティーヴィーがメンバーの音楽心を刺激するのは間違いなかった。

リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスという二人のアメリカ人新メンバーを迎え入れて1975年にリリースした『Fleetwood Mac』は、発売から1年以上をかけてチャートのトップまで登り詰める。売れないデュオが書きためていた曲によって、60年代後半にデビューした英国バンドが遂に世界的成功を掴んだ瞬間だった。

翌1976年。彼らは次作『Rumours』(以下『噂』)の制作に取り掛かることになるのだが、ここで大きな問題が起こってしまう。同棲していたリンジーとスティーヴィー、そしてジョンとクリスティン・マクヴィー夫妻に破局が訪れたのだ。

あの時は離婚の話をしている真っ最中で、お互いに別居を考えたりして落ち着かない時期だった。だからレコーディングの話には飛びついたよ。家を離れて仕事に集中したかったんだ。心から愛している女性から「さよなら」を告げられたのだから。(ジョン・マクヴィー)


カリフォルニアのサウサリートにある小さなスタジオで、『噂』のレコーディングは始まった。大勢のスタッフに囲まれながらの日々はラフな雰囲気を醸し出していたが、二組のカップルの間には緊迫した空気だけが流れていた。

当時の曲はどれを聴いても私たち二人の関係を歌っている。『噂』っていうタイトルを考えたのはジョンよ。心の内を覗くような歌詞は『噂』であってほしいという内容だった。(クリスティン・マクヴィー)


二人は会話も交わさなくなった。しかし、同じバンドのメンバーとして一つの音楽を追求するという現実を受け入れなければならなかった。やり場のない気持ちは隅に追いやって、やるべきことをやっていくしか他に方法はない。これは試練だ。それはもう一つのカップルも同じだった。

一緒にいることが苦痛だった。気持ちを切り替えられないの。イラついた時、スタジオに音楽があるとどれだけ救われたことか。(スティーヴィー・ニックス)


当時のメンバー間の葛藤は作品にも大きく影響している。それが『噂』の魅力になった。収録されている曲を聴くと、音楽以上の何かを感じるんだ。複雑な人間関係によってハーモニーが豊かになり、いい曲が生まれたのかもしれない。(リンジー・バッキンガム)


レコードではB面最初の曲だった「Chain」には逸話がある。本来は曲の途中でベースのソロが鳴り出すと、そのまま演奏だけで終わるはずだった。だがリンジーは自分の歌で曲を締めようと作詞を始めた。結局いい詞が書けないことが分かると、スティーヴィーと二人で組んでいた頃の詞を試してみた。曲のイメージにぴったりとはまったそうだ。

『噂』はミキシング作業も含めると、18ヶ月もの歳月を要して完成に至る。聴く者に悲しみや苦しみを癒す力をもたらすこのアルバムは、「Go Your Own Way」「Dreams」「Don’t Stop」「You Make Loving Fun」などのヒットシングルを量産しながら、当人たちの予想を遥かに超える大ヒットを記録。1977年2月にリリースされると、4月にはナンバーワンになり、その後実に31週に渡って首位をキープする(セールスは現在までに全米だけで2000万枚以上、世界で4000万以上)。

このアルバムのおかげでバンドは解散危機を免れることができたんだよ。成功の鍵は作品全体に“つながり”があったからさ。俺のドラムも最高だしね。(ミック・フリートウッド)


「時がすべてを解決してくれる」という言葉がある。フリートウッド・マックの二組のカップルは破局しながらも、気持ちを抑え、一緒に仕事を続け、そしていつしか許し合った。

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フリートウッド・マック『噂』(1977)

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アルバムジャケットの裏側には、連続写真でメンバーたちの姿が映っている。これは破局直後のフォトセッションだったらしく、この時リンジーがジョンを抱きしめると、続いてクリスティンがスティーヴィーを抱きしめるという連鎖反応が起こったそう。そのおかげでミックだけ一人になってしまった(彼も当時離婚問題を抱えていた)。

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スティーヴィーの「Dreams」はナンバーワン・ヒットに


大ヒットしたリンジーの「Go Your Own Way」

クリスティンの「Don’t Stop」も大ヒットした

アルバムには残念ながら収録時間の都合でカットされてしまったスティーヴィーの名曲「Silver Springs」

*コメント引用/DVD『メイキング・オブ・ルーモアズ』より
*このコラムは2016年9月10日に公開されたものを更新しました。

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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