「41年前の曲がビルボードチャートを急上昇……なぜ?」というタイトルの、いささか気になる記事が目に入ったのは2018年4月10日のことだった。
「GQ JAPAN」で取り上げられていたのその曲は1977年に大ヒットしたフリートウッド・マックのアルバム『噂(Rumours)』から、3月にシングル・カットされた「ドリームス(Dreams)」である。
フリートウッド・マックは1967年に結成されて以来、時代とともにメンバーを変えながら音楽的な変化を遂げて、1970年代に入ってから多くのヒット曲を放って成功を収めた。
そんな彼らにとって「ドリームス」は、ビルボードの全米HOT100において唯一のNo1シングルになった楽曲で、1977年6月18日に1位になった。
昨年は日本でも荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」が、大阪の登美丘高校ダンス部によって使用されたことで、32年ぶりにブレイクしてを果たして話題になった。
この記事によれば”41年前の曲がビルボードチャートを急上昇”の発端となったのは、あるTwitterユーザーが先月末に投稿した動画だったということで、”今回のケースも似たような構図と言える”と述べられている。
しかし、ここでいうところのビルボードチャートは全米HOT100ではなく、ダンスのカテゴリーチャートなのでタイトルほどのインパクトはない。
ただ「ダンシング・ヒーロー」と違って、「ドリームス」は決してダンス向きの楽曲ではなかった。
それにもかかわらずマーチングバンドのダンスチームが、見事に踊っているという理由で話題が世界に広まっているのだという。
さて、この曲を作詞作曲して歌ったスティーヴィー・ニックスは、フリートウッド・マックの一員として活動した後にソロとなって活躍し、40数年にわたるキャリアのなかで何度もグラミー賞に選ばれてきた歌姫である。
自分から心が離れていく恋人への思いを歌った「ドリームス」は淡々としたサウンドだが、浮遊感と緊張感が交錯する不思議な魅力を持っていたし、スティーヴィースの歌声は抑制がきいて重みがある。
そして恋人というのはフリートウッド・マックに二人で加入する前から、ともに活動していたギタリストのリンジー・バッキンガムだった。
雷は雨が降っているときに鳴る
バンドの演奏者は演奏しているあなたが好き
くり返されるサビの歌詞では、明らかにリンジーのことが歌われている。
スティーヴィーはアルバムの制作が始まる頃からリンジーとは破局状態になっていたが、レコーディングにおいては自分の役割としてソング・ライティングとヴォーカルを担当していた。
それはリンジーも同じでソング・ライティングとギター、ヴォーカル、そしてアレンジも行っていた。
最初は退屈な曲に思われていた「ドリームス」だったが、リンジーがアレンジ面でのアイデアを次々に加えていったことで、次第に魅力のある作品に仕上がっていったという。
スティーヴィーがそのときのことを、後にこのように語っている。
「ドリーム」を書いた夜のことを、私は覚えています。
スタジオの中に入って、その曲のカセット・テープをリンジーに渡しました。
それは私の歌とピアがの入っただけの、ラフなテイクです。
リンジーはその曲をプレイして、私の方を見て笑顔を見せてくれました。
その後、私たちの関係はとても悲しいものになってしまいます。
カップルではなくなってしまったからです。
でもミュージシャンとしては、いまも尊敬し合っています。
複雑な人間関係の綾があったことで楽曲に深味や奥行きが加わり、神秘的な雰囲気を感じさせるのかもしれない。
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