『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues/2003/マイク・フィギス監督)
2003年。アメリカでは「BLUES生誕100年」と称して、CD・書籍・番組・ラジオ・コンサートといったメディアミックスを通じて“魂の音楽”を伝えるプロジェクトが展開された。中でもマーティン・スコセッシ監督が総指揮した音楽ドキュメンタリー『THE BLUES』は、総勢7名の映画監督が様々な角度から“魂の音楽”をフィルムに収めて大きな話題を呼んだ。
今回紹介するのは『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues)。マイク・フィギス監督。BLUESに取り憑かれた英国ミュージシャンたちの熱い演奏とインタビュー、貴重な映像などが綴られていく。
ローリング・ストーンズが念願のアメリカの土を踏んだ時、「マディ・ウォーターズがどれだけ凄いか」を観衆に訴えたにも関わらず、アメリカ人たちは誰一人として彼の名を知らなかったというエピソードが出てくるが、もしも英国人たちがアメリカで葬られたこのBLUESを蘇らせなければ、今日の音楽シーンはなかったと断言してもいいくらい重要な出来事だったのだ。もちろん我々もBLUESの存在さえ知ることはなかったに違いない。
この物語を観ていると、英国の白人の若者たちこそがBLUESの扉を開け、アメリカに逆輸入され、やがてメインストリームに躍り出ていく流れが分かってくる。B.B.キングは「彼らが黒人音楽を取り上げてから、アメリカで俺たち黒人のドアが開き始めた」と言う。
1950年代半ば。スキッフル・ブームが巻き起こったイギリス。それを機にアマチュアバンドが相次いで生まれることになり、60年代になってビートルズと名乗ることになるクォリーメンが結成されるのは有名な話だ。また、ロンドンではアレクシス・コーナーやジョン・メイオールの影響下、ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンやジェフ・ベックが在籍したヤードバーズがデビュー。
バーミンガムからはスティーヴ・ウィンウッドが在籍したスペンサー・デイヴィス・グループ、アイルランドからはヴァン・モリソンが在籍したゼムも登場。そしてピーター・グリーンが在籍したフリートウッド・マックらのブルース・ロックもシーン化して更なる広がりを見せていく。すべての根底にBLUESがあった。
『レッド、ホワイト&ブルース』には、ヴァン・モリソン、ジェフ・ベック、トム・ジョーンズらの演奏のほか、ジョン・メイオール、エリック・クラプトン、スティーヴ・ウィンウッド、ジョージィ・フェイム、ピーター・グリーン、ミック・フリートウッド、アルバート・リーといったインタビューを収録。伝説が伝説を語っている。
白人でしかも英国人である彼らは、ストーンズのように憧れのアメリカの地を踏むことなるが、映画では幾つかのエピソードが紹介される。
フリートウッド・マックがシカゴのスタジオに入った時のこと。出迎えたブルーズマンたちは“眉唾モノ”の彼らをしばらく試しているようにも思えた。ところが魂からの演奏は重い空気を次第に変えていき、最後には「なかなかやるじゃないか。お前らクールだな」と言われたそうだ。
スティーヴ・ウィンウッドは音楽学校時代、教師から「ストラヴィンスキーを取るかレイ・チャールズを取るか」と迫られ、ヴァン・モリソンは「人種は関係ない。BLUESとは人間の真実なんだ」と語る。
中でもクリス・ファーロウに起こった出来事は面白い。「Stormy Monday」のレコードを出してからアメリカに出向いた時。黒人のブルーズマンと会うことになり自己紹介をした。
「クリス・ファーロウだって? 俺の知ってるミュージシャンと同じ名前だ。そいつは“Stormy Monday”を歌ってる」
「それは俺のことだよ」
「いや、違う。俺が知ってるのは黒人だから」
ブルーズマンはラジオで流れてくる「クリス・ファーロウ」しか知らなかった。クリスは認めてもらえたと思い、むしょうに嬉しくなった。
ヴァン・モリソンやジェフ・ベックらによる歌と演奏
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*参考・引用/『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ監修/ピーター・ギュラルニック他編/奥田祐士訳/白夜書房)
*このコラムは2016年11月に公開されたものを更新しました。
(『THE BLUES』シリーズはこちらでお読みください)
『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』(Feel Like Going Home/マーティン・スコセッシ監督)
『ソウル・オブ・マン』(The Soul Of A Man/ヴィム・ヴェンダーズ監督)
『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/リチャード・ピアース監督)
『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/チャールズ・バーネット監督)
『ゴッドファーザー&サン』(The Godfathers And Sons/マーク・レヴィン監督)
『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues/マイク・フィギス監督)
『ピアノ・ブルース』(Piano Blues/クリント・イーストウッド監督)
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから
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