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ゴッドファーザー&サン〜BLUESがルーツ(根)でそれ以外はすべてフルーツ(果実)だ

2024.02.23

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『ゴッドファーザー&サン』(Godfathers And Sons/2003/マーク・レヴィン監督)


2003年。アメリカでは「BLUES生誕100年」と称して、CD・書籍・番組・ラジオ・コンサートといったメディアミックスを通じて“魂の音楽”を伝えるプロジェクトが展開された。中でも音楽ドキュメンタリー『THE BLUES』は、総勢7名の映画監督が様々な角度から“魂の音楽”をフィルムに収めて大きな話題を呼んだ。

今回紹介するのは『ゴッドファーザー&サン』(Godfathers And Sons/マーク・レヴィン監督)。マディ・ウォーターズを親玉とするシカゴ・ブルーズの全盛期とその舞台となったポーランド移民が設立したチェス・レコードの一族ドラマを通じて、ブルーズとヒップホップの画期的なコラボレーションが実現するドキュメントだ。

不可能と思えた試みが一気に現実的になった瞬間だった。それはヒップホップ・アーティストであり音楽研究家でもあるチャックD(パブリック・エナミー)が、チェス・レコードの2代目マーシャル・チェスに送った一通のeメール。

チェス一族の伝記を読みました。興味を持つようになったきっかけは、あなたがプロデュースしたマディ・ウォーターズの『Electric Mud』(1968)のブルーズ・ロック・アルバムでした。ブルーズとヒップホップを結びつける映画を作ると聞いて連絡したんです。手伝わせてください。


『Electric Mud』はサイケデリック時代を反映した実験的なブルーズで、発売当時は酷評された。マディ・ウォーターズが作ったアルバムと思えなかったからだ。だがそれは間違いだった。ヒップホップ世代の若者たちには革新的に聴こえたのだ。チェス・レコードが残した功績はブルーズやロックンロールだけではなかった。

マーシャル・チェスとチャックDは二つの音楽を結びつけるため、マディと一緒に『Electric Mud』を録音した伝説的なメンバーと再会。さらにシカゴ育ちのラッパー、コモンが加わって現代版『Electric Mud』を再編成する。そして新しい「Manish Boy」に取り組んでいく。

二つの音楽につながりがあるのは間違いない。ヒップホップはブルーズの子供だ。僕は本気で成長したかったら、絶対にルーツを知らなきゃだめだと思う。親のことを知ったり、自分の文化のことを知ったりするようなもので、そうすればその文化に誇りを持って、世界に広めていけるんだ。(コモン)


ベースを担当したルイス・サッターフィールドは言う。「俺の婆さんは俺が音楽をやるのを嫌がった。ブルーズをやられちゃたまらないって」。それは悪魔の音楽であり、セックスであり、親たちがとにかく子供にやらせたがらないものだった。時が流れ、ヒップホップも同じ運命を辿っている。チェス・レコードでビジネスから雑用、ソングライティングまで担当していたウィリー・ディクソンの口癖は、「ブルースはルーツ(根っこ)で、それ以外はみんなフルーツ(果実)さ」

マーシャル・チェスは子供の頃から父レナードのそばで、色気と体臭にまみれた偉大なるブルーズマンたちを間近に見て育った。それはあまりにも強烈な体験だったに違いない。黄金期のローリング・ストーンズのマネージャーを務めたこともあるが、マーシャルにとってはリハビリのような期間だったのかもしれない。

大学を中退して父の会社に入った時、マーシャルには仕事が与えられなかったという。机すらなかったので、マーシャルは我慢できずに尋ねた。「父さん、僕は何をすればいいんだよ?」。するとレナードはこう言ったそうだ。「俺の仕事をその目で見ておけ!」

ブルーズを知るというのは、人の気持ちや考え方を知るということだ。人の苦境に我が身を置き換え、そうなった時の気持ちや考え方を理解する。(ウィリー・ディクソン)


本作には、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、リトル・ウォルター、オーティス・ラッシュ、マジック・スリム、ロニー・ブルックス、サニー・ボーイ・ウィリアムスン2世、アイク・ターナー、パイントップ・パーキンス、ボ・ディドリーらの貴重な演奏シーンのほか、彼らの息子たちであるローリング・ストーンズやポール・バターフィールド、マイク・ブルームフィールドらも登場する。ココ・テイラーの歌唱も圧巻だ。

最後はココ・テイラーの言葉で締めくくろう。

ブルーズと口にすると、みんな日々の悲しみとか辛さとか苦労を思い浮かべるでしょ。確かにそういうことを歌っているブルーズは多いわ。でもあたしのブルーズは人を励ますの。立ち上がって踊りたいって気にさせるのよ。


マディ・ウォーターズの曲がブルーズとヒップホップをつなぐ


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*参考・引用/『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ監修/ピーター・ギュラルニック他編/奥田祐士訳/白夜書房)
*このコラムは2017年1月に公開されたものを更新しました。

(『THE BLUES』シリーズはこちらでお読みください)
フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』(Feel Like Going Home/マーティン・スコセッシ監督)
ソウル・オブ・マン』(The Soul Of A Man/ヴィム・ヴェンダーズ監督)
『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/リチャード・ピアース監督)
『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/チャールズ・バーネット監督)
『ゴッドファーザー&サン』(The Godfathers And Sons/マーク・レヴィン監督)
『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues/マイク・フィギス監督)
『ピアノ・ブルース』(Piano Blues/クリント・イーストウッド監督)

(こちらもオススメです)
売れ始めても英雄マディ・ウォーターズの使いっ走りをやめなかったピーター・ウルフ

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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