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ソウル・オブ・マン〜ヴィム・ヴェンダース監督が捉えた3人の伝説のブルーズマン

2017.11.28

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2003年。アメリカでは「BLUES生誕100年」と称して、CD・書籍・番組・ラジオ・コンサートといったメディアミックスを通じて“魂の音楽”を伝えるプロジェクトが展開された。中でも音楽ドキュメンタリー『THE BLUES』は、総勢7名の映画監督が様々な角度から“魂の音楽”をフィルムに収めて大きな話題を呼んだ。

今回紹介するのは『ソウル・オブ・マン』(The Soul Of A Man/ヴィム・ヴェンダース監督)。ヴェンダースお気に入りの3人のブルーズマンの姿を通じて、その真髄に迫っていく物語だ。

1977年。NASAが打ち上げる宇宙探査船ボイジャーは、太陽系外で遭遇するかもしれない“生物”のために、地球の挨拶言葉や音が録音されたレコードも一緒に連れて行くことにした。この時、バッハやベートーヴェンやモーツァルトと並んで、20世紀を代表する音楽として一人の黒人ミュージシャンの曲も入れられた。それはブラインド・ウィリー・ジョンソンが1927年に録音した「Dark Was the Night,Cold Was the Ground」。

ヴェンダースは映画監督らしい幾つかの創作上のマジックを仕掛けた。1947年に死んだはずのこのブラインド・ウィリーが“ナレーター”となって、我々に伝説のブルーズマンたちの人生を案内していくのだ。そして、1920〜30年代当時の風景とブルーズマンを再現するために、デブリー社のパルヴォという古い手回しカメラを使用。役者やセットを昔ながらの美しい映像が捉えることができ、余りにも効果的だったので、多くの人々は未発表の記録映像だと勘違いするほどだった。

ブラインド・ウィリー・ジョンソンは妻と共に聖的な曲しか歌わず、世俗的な音楽には一切手を出さなかった。ブルーズマンというよりは、弾き語りで神の教えを説くギター・エヴァンジェリスト。彼のギターテクニック、とりわけボトルネック奏法は「ブルーズ史上屈指の素晴らしさ」と称されることになった。

スキップ・ジェイムスは1931年に初めてのレコーディングを行い、18曲を一気に録音。だが、ある日突然ブルーズを演奏するのをやめてしまい、牧師となって以来30年もの間ブルーズと縁を切った。しかし、研究家たちに再発見された彼は、入院中の病院から連れられて1964年の「ニューポート・フォーク・フェスティヴァル」に出演。何時間も本物のブルーズを演奏して驚かせた。1969年死去。

数多くのブルーズマンが自分の世俗的な側面と聖的な側面の間で引き裂かれている。このギャップがブルーズ史における重要なテーマのように思えた」とヴェンダースは言う。「ゴスペルとブルーズの間を走る緊張は、奇妙な境界線を形作ってきた

実際、ブラインド・ウィリーやスキップ・ジェイムスのように、ブルーズマンたちの多くは二つの人生を行き来していた。早く悪魔の音楽を捨てて、神の音楽を奏でなければならないと感じていた。

映画の後半のスポットライトは、1950〜60年代のJ.B.ルノアの人生にあてられる。こちらはある“大発見”のおかげで、当時の映像が使われることになった。2本の16ミリフィルムが見つかったのだ。

美術学生のカップル、スティーヴとロンノグが1960年初頭にシカゴでJ.B.ルノアを撮影していた。ルノアと友人関係になった二人は彼の人柄を愛するあまり、何とかしてその存在を世に広めたいと思った。そこでスウェーデン出身のロンノグは短い映画を撮って故郷に持ち帰れば、TV局が放送してくれるのではないかと閃いた。

映画作りにまったく知識がなかったが、二人はルノアの演奏シーンを10分のフィルムに収めた。しかし、スウェーデンのTV局からは白黒でないことを理由に断わられる。そこで1年後。今度は白黒でルノアを撮ることにした。シカゴの自宅へ出向き、リビングで20分の映像を捉えた。だが、スウェーデンのTV局でこのフィルムが流れることはなかった。

この2本は誰の目にも触れることはなく、そのまま埋もれることになった。公民権運動を支持してベトナム戦争を批判する新しい時代のブルーズを高音で歌ったルノアは、1967年に38歳の若さで亡くなった。

ブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムス、J.B.ルノアを蘇らせた『ソウル・オブ・マン』には、たくさんのミュージシャンが登場してこの映画のためのライヴを披露。3人から影響を受けたボニー・レイット、ルー・リード、ニック・ケイヴ、ベック、ルシンダ・ウィリアムス、ロス・ロボス、カサンドラ・ウィルソン、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン、Tボーン・バーネットらが登場してブルーズを演奏している。

ヴェンダースは当時のブルーズの風景を再現した


J.B.ルノアの伝説的映像

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*DVDで中古品は入手可能。新品は現在廃盤の模様。

*参考・引用/『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ監修/ピーター・ギュラルニック他編/奥田祐士訳/白夜書房)
*このコラムは2017年1月11日に公開されました。

(『THE BLUES』シリーズはこちらでお読みください)
フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』(Feel Like Going Home/マーティン・スコセッシ監督)
『ソウル・オブ・マン』(The Soul Of A Man/ヴィム・ヴェンダーズ監督)
『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/リチャード・ピアース監督)
『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/チャールズ・バーネット監督)
ゴッドファーザー&サン』(The Godfathers And Sons/マーク・レヴィン監督)
『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues/マイク・フィギス監督)
『ピアノ・ブルース』(Piano Blues/クリント・イーストウッド監督)

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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