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ロード・トゥ・メンフィス〜伝説のブルーズマンたちの帰郷

2024.02.24

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『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/2003/リチャード・ピアース監督)


2003年。アメリカでは「BLUES生誕100年」と称して、CD・書籍・番組・ラジオ・コンサートといったメディアミックスを通じて“魂の音楽”を伝えるプロジェクトが展開された。中でもマーティン・スコセッシ監督が総指揮した音楽ドキュメンタリー『THE BLUES』は、総勢7名の映画監督が様々な角度から“魂の音楽”をフィルムに収めて大きな話題を呼んだ。

今回紹介するのは『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/リチャード・ピアース監督)。テネシー州メンフィスのビール・ストリートを舞台にしたブルーズマンたちの物語だ。

ビール・ストリートとは、1920〜50年代にかけてストリート・ライヴや劇場でのショーが盛んだったメンフィスの黒人商業地区のメインストリートの名称。現在ではすっかり観光地化されて全盛期の面影はほとんどなくなったそうだが、それでもB.B.キングのクラブをはじめ、ブルーズ発祥の町として多くの音楽ファンを魅了し続けている。

映画はW・C・ハンディ賞での記念ステージを披露するために、この地が育んだブルーズマンたちが各地から帰郷してくる姿を描く。伝説の顔ぶれが同じフィルムに収まっている事実も凄いが、ロードムービー風の追いかけ方も秀逸な傑作となった。

駆け出しの頃のB.B.キングもこの通りに立ってブルーズを歌っていた一人。地元のラジオ局WDIAにDJ兼ミュージシャンとしての職を得ると、「ビール・ストリート・ブルーズ・ボーイ」というニックネームで呼ばれた。長いので「ブルーズ・ボーイ」となり、「B.B.」になった。綿花畑を抜け出した“音楽畑”での新しい人生がスタートした。

そんなB.B.に最初のチャンスを与えたとされるのが、全米で黒人最初のDJとなったWDIA局のナット・D・ウィリアムズ。彼は素人コンテストの司会や150万人以上のデルタ地区の黒人たちに自分たちの音楽を届けた。

また、エルヴィス発掘まではビール・ストリートのブルーズマンたちを録音していたサン・レコードのサム・フィリップス。1951年にメンフィスにやって来たアイク・ターナーは一緒に仕事をしたサムに、当時を振り返ってこう言う。

その頃、黒人たちの音楽は「レイス・レコード」と呼ばれ、白人向けのラジオ局では絶対に流せなかった。そこでサムは閃いたのさ。白人に黒人のように歌わせればいい。R&Rの誕生だ。


ハウリン・ウルフも52年にシカゴへ行くまではメンフィスが活動の場だった。ジュニア・パーカー、ルーファス・トーマス、リトル・ミルトン……どのブルーズマンたちもビール・ストリートなくして語れない。そして、多くのブルーズマンたちは南部に根付く黒人差別とも戦った。

やがてR&Rやソウルが登場すると、ブルーズ人気は下火となり、ロスコー・ゴードンのように仕事を失うブルーズマンたちも出てきた。50年代メンフィスのブルーズ/R&Bシーンを代表するスターだったロスコーは、B.B.やボビー・ブランドらミュージシャン仲間の中心的存在として活躍。ロッキンR&Bなピアノプレイは、ジャマイカのスカ誕生にも多大な影響を与えたと言われている。そんな人物でさえ62年にメンフィスを去り、以後NYで20年間もクリーニング業に従事することになる。

『ロード・トゥ・メンフィス』では、老いたロスコーが昔の仲間たちと再会してプレイする貴重なシーンが観られる。彼はメンフィスでの撮影後にNYの自宅で亡くなった。公演前日のことで、カバンには旅支度がしてあったそうだ。

B.B.キングはロスコーたちとのプレイ中、こんなことを口にする。

昔を思い出すよ。ロスコー・ゴードンに、アイク・ターナー。リトル・ミルトンも若かった。雨が降ると、道がぬかるんで、靴の中は泥だらけ。踏んだ石の数を数えて……あれから数十年。こうして集まれた。神に感謝を。


最後は、この映画の主役とも言えるボビー・ラッシュ。チトリン・サーキットと呼ばれる南部の黒人街にあるクラブや劇場やパーティを、ツアーバスでひたすら巡業しながらブルーズの伝統や新しい形態を演奏し続けるボビー。こんな生活を始めてもう50年。年間250〜300ステージをこなす。

商業主義的なルートは別に、こうしたルートを巡る黒人街のスターこそ、ブルーズの明日へのエネルギー源だろう。映画はボビーのこんな言葉で締めくくられる。

落ちる時はとことん落ちる。だから今の状況に感謝だ。ブルーズの席があり、ブルーズの子たちやブルーズの車だってある。もし若くて軍隊に入るなら、ブルーズ軍に入隊して、ブルーズ戦争で戦う。なぜなら俺はブルーズだから。



B.B.キング、ロスコー・ゴードン、アイク・ターナー、リトル・ミルトンらのステージ。


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*参考・引用/『ザ・ブルース』(マーティン・スコセッシ監修/ピーター・ギュラルニック他編/奥田祐士訳/白夜書房)
*このコラムは2016年12月に公開されたものを更新しました。

(『THE BLUES』シリーズはこちらでお読みください)
『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』(Feel Like Going Home/マーティン・スコセッシ監督)
ソウル・オブ・マン』(The Soul Of A Man/ヴィム・ヴェンダーズ監督)
『ロード・トゥ・メンフィス』(The Road To Memphis/リチャード・ピアース監督)
『デビルズ・ファイヤー』(Warming By The Devil’s Fire/チャールズ・バーネット監督)
ゴッドファーザー&サン』(The Godfathers And Sons/マーク・レヴィン監督)
『レッド、ホワイト&ブルース』(Red, White & Blues/マイク・フィギス監督)
『ピアノ・ブルース』(Piano Blues/クリント・イーストウッド監督)

(こちらもお読みください)
B.B.キング〜ブルース・シンガーになるということは、二度黒人になるようなものだ

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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