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『ロンドン・コーリング』のジャケットを見て最高のヘヴィメタルに違いないと思ったトム・モレロ

2018.08.28

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「ロックの殿堂でのスピーチ原稿を俺以上に書き直したヤツはいないはずだ」

2003年、ロックの殿堂の授賞式でザ・クラッシュのプレゼンターをU2のザ・エッジとともに務めたトム・モレロは、そのときの思い出をこのように振り返っている。

1990年代にはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのメンバーとして、ロックシーンに新たな変革をもたらし、その後もオーディオスレイヴを結成するなど、第一線で活躍し続けてきたトム・モレロ。
そんな彼の人生を変えたヒーローが、クラッシュとジョー・ストラマーだ。
数えきれないほど原稿を書き直したのも、崇拝する気持ちの大きさゆえのことだった。

それはトムが16歳のときのことだ。
当時のトムは、レッド・ツェッペリンといったハード・ロックや、ヘヴィメタルに夢中な学生だった。

ある日、クラスメイトが教室に一枚のレコードを持ってきた。
そのジャケットを見たトムは「おいおい、そいつは見るからにとんでもないヘヴィメタルのレコードだな」と興味を抱いた。

荒々しく楽器を叩きつけて破壊するその姿は、トムの目には最高にクールなヘヴィメタルに映ったのだ。



ところがそのクラスメイトは、トムの予想を否定した。

「こんなにヤバそうなカバーなのに、ヘヴィメタルじゃないだって?」

トムが訝しむと、クラスメイトは笑いながら言った。

「ヘヴィメタルじゃない、でも最高だよ」

メタルじゃないレコードが良いはずがない、とトムはクラスメイトの言葉を疑ったが、いったいどんな内容なのか気になり、頼み込んでそのレコードを貸してもらった。

家に帰ってレコードを聴いたトムは、そのときの心境をこう語っている。

「ああ、確かにメタルじゃなかった。そう、これまで聴いてきたどんなメタルよりも最高だった。
その一枚のレコードで俺の世界は変わったんだ」


ザ・クラッシュの3枚目となるスタジオ・アルバム『ロンドン・コーリング』。
その1曲目でタイトル曲の「ロンドン・コーリング」は、ミック・ジョーンズの危機感を募らせるようなギターから始まり、やがてジョー・ストラマーが警鐘を鳴らすかのように歌い出す。

ロンドン・コーリング
遠方の町へ
戦争が布告され、戦闘が近づいた今
ロンドン・コーリング
暗黒街へ
食器棚から出てくるんだ、ボーイズ&ガールズ


ケニア初の国連代表となった父と、高校教師で運動家でもある母を親に持つトムは、学生時代から政治に対する関心が高く、学校では学生新聞にも関わっていた。
そんなトムにとって、クラッシュの音楽、そしてジョーの言葉はそれまでのどんな音楽よりも胸を打つのだった。



トムはこの頃すでにギターを弾いていたが、ロック・ギタリストになれるとは思っていなかったという。
なぜなら、本物のロック・ギタリストになるには何万ドルもするレスポールのエレキギターや、巨大なマーシャル・アンプが必要だと考えていたからだ。
トムが唯一持っていたアンプは、ミュージックマン社製の、椅子の上に置けるくらい小さなものだった。そんなもので、クラッシュのような力強いロック・サウンドが鳴らせるとは到底思えなかった。

しかし、そんなトムの価値観を打ち砕いたのも、やはりクラッシュだった。
それはトムがクラッシュのコンサートを観に行ったときのことだ。
なんと、憧れのロックスターであるジョー・ストラマーが、自分と全く同じミュージックマン社製の小さなアンプを、椅子の上に置いて使っていたのだ。

「その瞬間に気づいたよ。いつかは自分にだってできる、なんて考えは間違っていた。
俺もやっている…俺も同じことをやっている、誰もがやっている! そう思ったんだ」



参考サイト:
Tom Morello discusses Joe Strummer and The Clash


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