神の洪水が
罪の都を洗い流す時
人はそれを
主のページに綴られた物語だという
クラッシュのジョー・ストラマーは常に怒れる若者だったわけではない。3枚組大作『サンディニスタ』に収められた「ザ・サウンド・オブ・ザ・シナーズ」は、ジョーが初めて<神>を取り上げた、いわばクラッシュ版ゴスペルとでもいうべき作品である。
でも俺は
あの最高なジャズ・ノートを探してた
エリコの壁さえ壊したという
あの音さ
エリコというのは、旧約聖書ヨシュア記に出てくる地名だ。モーセの意志を継ぐヨシュアが、契約の箱を担いでその周りを廻ることで、難攻不落とされたエリコの巨大な壁が崩れ去ったという物語である。
ジョーは、自らのビートとリズムで目の前の壁を崩していこうとする。だが、誰もがジョーのように強い男ではない。
クラッシュというバンドの中にも、ツアーに明け暮れるヘビーな毎日に疲れ果てているメンバーがいた。ドラムスのトッパー・ヒードンは、徐々にドラッグに溺れるようになっていた。
恐怖という名の風が
病人を鞭打ち飛ばす時
錠剤には
ヴァリウムという精神安定剤の名が
書かれていた
疲れ果てた者には、ドラッグが救世主となってしまうのである。ジョーはトッパーの口からもれた言葉を、そのまま歌詞にした。
イエスを信じるようになって
しばらくすると
あのドラッグを飲むようになって
しばらくすると
俺は自分を神のように思ったのさ
そして、クラッシュの歌に酔いしれたファンたちにとっては、ジョー・ストラマーは救世主のような存在となっていた。
自分は、悩み、泣き、傷つく生身の人間なのだ、とジョーは言葉を搾り出す。
何度も嘘をつき
何度も涙を流し
何度も傷ついても
俺はまだ
神になるような
善き人間ではないし
清い人間でもない
ジョー・ストラマー自身は、自らの宗教観について次のように語っている。
「俺はこの世に、善と悪があることは信じている。そして自分がしたことは自分に返ってくるってことをね」
ドラッグで傷ついたトッパーは、バンドを離れた。結局、彼はこの曲をステージで演奏することはなかった。「ザ・サウンド・オブ・ザ・シナーズ」がライヴで演奏されたのは、トッパーが去ってから3年後のことである。
その後、クラッシュにも解散の時がやってくる。疲れ果てたジョー・ストラマーが訪れたのは、ジョニー・キャッシュのところだった。
ジョーは、熱烈なクリスチャンでもあるジョニーと、ボブ・マーリィの「リデンプション・ソング(贖罪の歌)」を歌うことになる。。。
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(このコラムは2015年4月2日に公開されたものです)