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キャブ・キャロウェイを偲んで〜大恐慌の嵐が吹き荒れたアメリカで黒人エンターテイナーとして最大級の人気を博した男の軌跡〜

2016.11.18

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1930年代、大恐慌の嵐が吹き荒れたアメリカで“黒人エンターテイナー”の代名詞的な存在だったキャブ・キャロウェイ。
“ズート・スーツ”なる膝まである長い上着と、先細りになっただぶだぶのズボンという奇抜なステージ衣装。
ハンサムですらりとした長身で指揮棒を振るい、オーケストラを指揮するというよりは踊り狂っているような仕草。
これまでに誰も目にしたこともないアクの強いショーダンス、そして優れた美声の持ち主であり、そのバリトンボイスは張りがあって艶っぽく、高く澄んだ歌声で聴衆を魅了するヴォーカリトでもあった。
響き渡る声で朗々と歌ったかと思うと一変、今度は機関銃のような早口でまくしたてるスキャット、軽妙なダンスステップを踏みながら楽団の演奏を自在に操る姿は正に“エンターティンメント真髄”だった。

彼は1994年6月12日、自宅でテレビを見ている最中に脳梗塞で倒れ入院。
その後デラウェア州ホーケシンの養護施設に移された。
同年の11月18日、脳梗塞が原因となり…家族が見守る中86歳の生涯を閉じた。
彼は亡くなる直前まで演奏活動を続けていたという。

1930年代初頭から1940年代後半にかけて、黒人エンターテイナーとしてアメリカ最大級の人気を博したといわれている彼の軌跡をあらためてご紹介します。
──1907年12月25日のクリスマス、彼はニューヨーク州ロチェスターで産声を上げた。
キャベル・キャロウェイIII世という本名が示すように、両親は中産階級で裕福な家庭環境で育つ。
10歳になる頃に、彼の家族はメリーランド州ボルチモアに移住。
両親は彼の音楽的才能に気づいて、歌のレッスンなど教育環境を整えた。
当初はクラシックを学ばせたかったようなのだが、彼自身はそれに従わず、両親が嫌うジャズに惹かれていく。
姉が先にジャズシンガーとして売り出していたこともあり、彼も大学を中退して姉に合流する形でプロになる。
シカゴを拠点としていた彼は、ルイ・アームストロングとも共演を果たし、彼からスキャットを習ったというエピソードが残っている。
彼に大きな転機が訪れたのは1930年だった。
ニューヨークに進出していた彼は、バンドを転々とするうちにリーダーに納まったのだが、そのバンドが当時一世を風靡していたデューク・エリントン楽団の代役としてコットンクラブに出演することとなる。
そこは当時“黒人が出演しているのに黒人は席に座れない”というハーレムの高級ナイトクラブで、ここに出演できることは一流黒人ミュージシャンである証しと言われた場所。
彼のそのスキャット唱法とユニークなパフォーマンスは大好評を博してすぐにクラブの専属となり、ラジオで中継放送されるまでとなったという。
これを機にキャブ・キャロウェイの名前は一躍全国区となってゆく。
その後、ヒット曲にも恵まれ映画などへの出演なども増えて、彼の人気はますます高まっていった。
1980年には映画『ブルース・ブラザーズ』への出演で世界的に脚光を浴びたりするなど、アメリカのエンタテインメント界を牽引するトップランナーへと伸し上がってゆく。


この「Minnie the Moocher」(1931年)は数ある彼のレコードの中で最大のヒットであり、彼の十八番中の十八番である。
この大ヒットを機にキャブ楽団のテーマ曲となり、彼の代名詞ソングとなった。
日本では戦前SP盤で発売となり、邦題は「お嬢ミニー」だったという。
Minnie=は女の名前、Mooch=は物乞いをする・盗む・ぶらつくという意味。
Moocher=は乞食・借りる・たかる。
歌詞はこんな風に展開してゆく。

ミニーは鉄火肌のべっぴん
そのハートは鯨のよう
ミニーの情夫スモーキーはジャンキー
二人でチャイナタウンの阿片窟に行きどっぷりヤク漬け
スモーキーは稼いだ悪銭で
ミニーに高級車、大邸宅、競走馬まで買い与え
すっかり“おねだりミニー”に吸い取られている
ミニーはスモーキーからかすめた100万ドルを悦に入って勘定している 
ハイディ ハイディ ハイディホー♪


これらの歌詞は言葉の一つひとつがニューヨークを中心に黒人たちの間に広まったスラングで綴られていて、まともには訳せないという。
アフリカから奴隷として新大陸に連れてこられた黒人たちは、やがて彼らの伝統的言葉遊び、ダズン(気の利いた悪口を言い合って戦う遊び)を発展させたジャイヴトーク(黒人ジャズミュージシャンのスラングを多用した早口でリズムに乗った話し方)を編み出し、白人には理解できない彼ら独特の陰語で語り合う風習が出来上がっていた。
歌手であり、優れたバンドリーダーであり、ダンサー、コメディアン、そして映画界における貴重な性格俳優でもあった“黒人エンターテイナー”の彼が歌ったこの「Minnie the Moocher」は、まさにそんな言葉遊びやスラングの産物なのである。

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