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TAP the ERA 1989-2019

J-POPという言葉と共に成長していったMr.Children②

2018.12.03

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J-POPという言葉と共に成長していったMr.Children➀はこちら

1992年にメジャーデビューをしたMr.Childrenのフロントマン、桜井和寿が志向していたのは「多くの人に届くポップミュージック」だった。

僕たちは楽しむ人の先頭に立って、その流れを変えていきたい。
(rockin’on japan 1993年1月号より)


その信条の通りに、彼は人々に届くようなポップなメロディと普遍的なラブソングを作り続けていく。

1994年の初め、桜井はCMのタイアップソングとして発表する楽曲を制作した。
前年「Cross Road」をヒットさせたことで楽曲作りにおいて自信をつけたこともあり、これを大きなチャンスだと捉えた。
そして、今まで以上に口ずさみやすいメロディと、爽やかな恋愛模様を歌った楽曲を作り出す。

しかし、その曲を聴いたプロデューサーの小林武史は、歌詞を書き換えるように桜井に告げた。

「今の桜井にしか歌えない歌詞を書くべきだ」

小林もまた、桜井のソングライティング力が上がったことを感じて、Mr.Childrenがブレイクするチャンスが来ていると感じていた。
だからこそ、今までよりも素直で力強い歌詞が必要だと考えていたのである。

その日、桜井は小林の言葉を反復しながら車で帰路に着いていたという。すると環状七号線を走行中に、彼の脳裏に言葉が浮かんできたのだ。
その瞬間に車を停め、次々と浮かんでくる言葉をノートに書き留めた。

「悩んでて、悩んでて、その時に思ったのが『少しだけ疲れたな』ということだったんですね。そういう詩を書いて。」

「(今までの自分は)ドアに鍵をしていたようなもんで、『少しだけ疲れたな』って言葉がドアの鍵を開けて、自分の心の中がばあっと開いてくれたみたいになったんです。」


心の奥底から湧き出た素直な感情を書き連ね、それを丁寧に歌詞として落とし込んだ。
その結果生まれた楽曲が、「innocent world」だった。


窓に反射する(うつる) 哀れな自分(おとこ)が
愛しくもある この頃では
Ah 僕は僕のままで ゆずれぬ夢を抱えて
どこまでも歩き続けて行くよ いいだろう?
mr.myself


疾走感のあるメロディと裏腹に、社会に揉まれ純粋さを失いかけた男の内面が歌い込まれている。
桜井は、誰もが生きるなかで抱いている感情を言葉にして、多くの人の心に届く歌を作り上げた。

「innocent world」はMr.Childrenとして初めてオリコンチャート1位になり、結果的に170万枚以上のセールスを記録。
その年のレコード大賞の最優秀賞も受賞して、彼らは「ミスチル現象」と名付けられるようなブームを巻き起こしていく。

「innocent world」を作り上げて以降、桜井自身の歌詞にも変化が訪れた。
彼は生きていく中で生まれる感情を歌詞にする術を覚えたのだ。

そして日本語と英語の韻を等しく響かせる歌と、自らの感情を歌った歌詞が混ざり合い、J-POPをという言葉に相応しい「新しさ」を持った楽曲たちを生み出していった。

なかでも1996年のシングル「名もなき詩」は、Mr.Childrenが目指したものの一つの到達点であった。


ちょっとぐらいの汚れ物ならば 残さずに全部食べてやる
oh darin’ 君は誰 真実を握りしめる

君が僕を疑ってるなら この喉を切ってくれてやる
oh darin’ 僕はノータリン 大切なものをあげる


この曲では「darin’」、「誰」、「タリン」と日本語と英語で韻を踏みながら、「純粋な自分」と「汚れた自分」の間でもがく男の姿が歌われる。

日本語と英語を同じように響かせることと、自分の内側にある感情を言葉にすることを、桜井は同時に成し遂げたのである。


甲斐バンドや浜田省吾のような日本語ロックやフォークの先駆者が作り上げたものを、Mr.Childrenは新たな日本語の表現によって更新した。

そして時を同じくして、かつてライヴハウスで切磋琢磨した、スピッツやTHE YELLOW MONKEY、ウルフルズといったバンドたちも、それまでになかった日本語ポップス=J-POPを生み出していく。

Mr.Childrenをはじめとした90年代のバンドたちが生み出した歌や言葉の表現は、のちのアーティストたちにも受け継がれて、J-POPのスタンダードになっていくのであった。

(文・吉田ボブ)

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