2014年7月にメジャー・デビューを果たしてからというもの、破竹の快進撃を続ける歌い手とアコーディオンの姉妹デュオ、チャラン・ポ・ランタン。ファンタジーと狂気がないまぜになったシニカルでシアトリカルな世界観で多くの人々を虜にしている彼女たちは、ツアーや野外フェスなど全国津々浦々を回るライブ活動のみならず、タッキー&翼から私立恵比寿中学、お笑いコンビのチュートリアルなどへの楽曲提供や、俳優・高橋克実とのコラボによるNHK「みんなのうた」への起用や、CM出演&音楽など目まぐるしい展開を見せてきたチャラン・ポ・ランタン。
2016年に入ってからも、その勢いは止まらない。SKE48を卒業したばかりの松井玲奈とのコラボ・ユニットでシングル「シャボン」をリリースしたかと思えば、小春が現在開催中のMr.Childrenホール・ツアーにサポート・ミュージシャンとして大抜擢。さらにボーカルのももは深夜ドラマに女優として出演。5月11日には、初のライブ映像集&ライブ・アルバム『女たちの残像』をリリース……と、常に話題と驚きを振りまいている。
そんな彼女たちの最新アルバム『女の46分』は、女性の一生を24時間になぞらえたリード曲「時計仕掛けの人生」を筆頭に、さまざまな女性の生き様を描いていく悲喜こもごもの人生劇場といった趣の一枚となった。これまでにも本サイトでは「TAP the POPが選ぶ 2010年代のベスト・アルバム50」に選出したりとことあるごとに紹介してきたチャラン・ポ・ランタンがインタビューにて登場。アコーディオンを担当し詞曲を手がける姉・小春と、強烈な個性を持つシャンソニエールである妹・ももに話を訊いた。
チャラン・ポ・ランタン「貴方の国のメリーゴーランド 」 MV
──2015年のチャラン・ポ・ランタンは、ツアーやフェスへの参加で全国各地を飛び回っただけでなく、テレビやCMへの出演、他アーティストへの楽曲提供やコラボなど、目覚ましい活躍ぶりでした。
もも「自分たちとしては全然そんな感覚はないんですよ。とにかくツアーはたくさんやりましたけどね」
小春「CDのリリースも、後から振り返って『1年でこんなに出てたんだ?』ってびっくりするような感じだったから」
もも「去年、野球のWBCのテレビ中継があって、その途中で私たちが出演している15秒ぐらいのCMが流れたんですけど、それを観てライブに来てくれた方もいましたね。テレビでCM見て、私たちのことや流れてきた音楽が気になって調べてくれて、わざわざ足を運んでくれたりするんだなってビックリしましたね」
──メディアから流れてきて、ほんの一瞬だけ触れても心にひっかかるチャラン・ポ・ランタンの個性の強さといいますか。今の音楽シーンの中で、ある種の異物感みたいな捉え方をされてるところもあるんでしょうね。
もも「異物感(笑)」
小春「そうだとうれしいな。たとえば私たちが出演して音楽も担当した〈コッコアポ〉や〈葛根湯〉の15秒CMを見ても、私たちがミュージシャンだとは思わないだろうし。ただ、ラジオや有線で流れてたりすると、すぐ気付かれるみたいで。普通のJ-Popの中に突然チャラン・ポ・ランタンの曲が流れると、みんな異様な気持ちにはなるんだろうなとは思うね」
──それに、小春さんのアコーディオンの音色とももちゃんの声も、他の音に埋もれてても際立って聴こえるパワーがあるんでしょうね。
小春「そうなのかな? 我々はアコーディオンとこの声にあまりにも慣れすぎちゃってるから、逆にギター・バンドや打ち込みの音楽のほうが未だに慣れない感じはあるんだけどね」
──10月にはニューヨークでの単独ライブも行って、大いに盛り上がったそうですね。
もも「チケットもソールドアウトして驚きましたね。そしてお客さんは現地の日本語が通じない人ばかりだったんだけど、ニューヨークだからって英語の曲を多めにしたわけでもなく、普段日本でライブをやっている時のような感じで、オリジナル曲をガシガシやって。途中で〈スーパーマリオ〉のメドレーやったりして、ものすごく盛り上がりましたね」
チャラン・ポ・ランタン「Super Mario Bros. Medley」
小春「海外のライブと言っても、言葉が通じないだけでね。国や地域ごとの性格もあるかもしれないですけど、日本人とはちょっと違うところもあるね。ちょっとだけストリートでも演奏したんだけど、演奏終わってから投げ銭を集めてたわけじゃないけどお金を手渡ししてきたりして。警備員も全然気にしないし、文化が違う感じはしたね」
──チャラン・ポ・ランタンの二人がすごいのは、どんなシチュエーションでライブをやってもまったく動じていないところなんですよね。
小春「いや、どこにいても浮いてるんだよ。いろんな意味で」
もも「動じてはいるけど、馴染んではいないよね(笑)」
小春「馴染める場所って言ったら、ゴールデン街ぐらいだもん(笑)」
──さて、セカンド・アルバム『女の46分』は、カラフルな楽曲が揃っていながらとても濃密な内容で、高いテンションを保ったまま最後まで突き抜けるような作品になりました。1曲目に収録されたスウィング・ナンバー「時計仕掛けの人生」は、ビッグバンドの持つ迫力と流麗さが見事に表れたアレンジですね。
小春「本当? この曲で初めてビッグバンドのアレンジをしてみたんだよ。『こういう風にしたら、ビッグバンドっぽいよな~って』って感じで書いたんだけどね。自分がコードの勉強とかをしてるわけじゃないから、ブラスとかには楽典的な部分で迷惑をかけてると思うんだけど、そこらへんはツアーも一緒にまわってるバンドメンバーがいい感じにすり寄せてくれるね。私、気付かないうちに時々謎の和音を使っていることもあるみたいなんだけど。頭にイメージしたのを譜面にするのは好きだな」
チャラン・ポ・ランタン「時計仕掛けの人生」 MV
もも「小春さん、最近よく『アレンジするのが好き』って言ってるよね」
小春「最近っていうか、前からアレンジするのは好きだけどね。あんなもん、好きじゃなかったら書けないよ~!(笑)」
──アレンジの作業は、どんなところが好きなんですか?
小春「私がもともとアレンジが好きなのは、譜面を書いたことによって、みんなを私の支配下に置けるじゃん? そういうきっかけでだったと思う。そもそもアコーディオンを長く続けられるようになったのも、一人ですべて完結するし、誰かと一緒にやらなくても平気そうっていう理由から。今は自分の作ったメロディーをアレンジでいろんな色付けや味付けをするのが楽しい」
もも「チャラン・ポ・ランタンの曲って、歌の後ろでずっと動いてる裏メロみたいなのも多くて。それも小春が考えて書いてるんです」
小春「他のバンドではこんなに吹かないよって、バンドのメンバーにも言われるけどね。歌モノでも、インスト・バンドばりに吹いてもらってる(笑)。私の中でのこだわりみたいなものがあって、歌が入ってなくてもちゃんと曲になっていてほしいんだよ。ボーカルのメロディがあるけど、その後ろで支えてる別のメロディがあったり。ほら、バッハみたいなの好きだから。昔の曲になっちゃうけど、〈サーカス・サーカス〉なんかは(主旋律と副旋律が)かなり錯綜してるもんね」
チャラン・ポ・ランタン「サーカス・サーカス」 LIVE(アルバム『ふたえの螺旋』収録)
──歌詞については、どんな風に作っていくんですか?
小春「アレンジが好きな理由とつながってくるかもしれないけど、自分が思ってることを誰かに代弁させるのが好きなんだよね。歌詞を書くこと自体、最初はそんなに興味がなかったんだけど、『ももにこういう言葉を言わせたい!』とか『こんなこと言っちゃってる。ウケるー!』みたいなことを、自分の口からじゃなくてももに言わせる(笑)。そういうのが楽しくて続いたっていうのもあるね。もちろん今はまた違う楽しさがあるんだけどね」
もも「〈時計仕掛けの人生〉も、最初はタイトルも違ったし、まったく別のテーマの歌詞だったんです。レコーディングの直前に小春が全部新しい歌詞を書いてきたんですけど、印象がだいぶ変わりましたね」
小春「この曲を一番最後に録ったんだけど、他の12曲で言い足りなかったことを全部この曲に背負わせようと。いろいろな想いを詰め込みたくて、ギリギリまで迷ってね」
もも「聴いてる人から見れば、この曲が最初にあって、そこからどんどんこのアルバムが出来あがっていったんでしょ?って思う方もいるみたいだけど。アルバム全体の柱になってるような存在の曲になったし、録り終えた時にすごく気持ちよかったですね」
──小春さんの曲作りは、曲と歌詞が割と別々な回路から生み出されてる感じがしますね。
小春「自分の中に作詞家と作曲家が別にいるというか、活動していくなかで別になったというか。ちょっと前までは、一度書いたら『ここに別の歌詞なんて入れたくない!』って感覚もあったの。だけど、自分はやっぱりインストゥルメンタルのプレイヤー気質が強いのかも? 歌がない状態にパッて戻して、別の歌詞を載せ替えるみたいなのがあまり億劫じゃないって気がついたんだよね。そういう感覚で曲作りができるようになってからは、変なプライドはなくなったかもしれない」
もも「〈メビウスの行き止まり〉なんて、ありがとうって言葉で終わってるんですよ。ありがとうなんて言葉が小春の歌詞から出てくるなんて、驚きでしたね。普段まったく言わない言葉だから」
チャラン・ポ・ランタン「メビウスの行き止まり」 MV
小春「最初はすごく違和感あったよ。でも、一週間ぐらい経ったら、私じゃない誰かが代弁してるって感じになって。最近は歌詞と曲から一度距離を置いてから考えるようにしてるだよね。曲に対する作者の思い入れとか、聴いてる人にとってはどうでもいいことじゃない? 〈ミルクティー〉って曲にしても、本当は私はミルクティーはそんなに好きではないとか、そんなのどうでもいいから(笑)。そういう思い入れが入ってきちゃうのって、余計だなって。だから一度、曲と距離を置いて、ちょっと他人事のように仕上げてみたんだよね。あまり自分の曲を溺愛しすぎるのもよくない。恋人なんかもそうだけど、溺愛しすぎると『そんなことぐらい自由にさせてあげなよ』みたいなところまで首を突っ込みたくなっちゃうから」
──楽曲に自分のエゴを詰め込みすぎるのではなく、少し聴く人の想いが入り込める余白を作っておくような?
小春「そうだね。今回アルバムを作って思ったんだけど、今までは自分のリアルな体験談だったり、『私はこう思ってます。君たちはそう思ってないでしょうけどね』みたいな感じで、聴いてる人をちょっと突き放すような内容もあったと思う。だけど今回の曲を作るにあたっては、あまり自分だけの話にならない話をしてみた。そのほうが、聴いてる人もすんなりと曲の世界に入っていけるんじゃないかなって。たとえば今じゃないと〈テイラーになれないよ〉みたいな曲も書けなかったと思うんだよ」
──曲名にあるテイラーっていうのは言うまでもなく、テイラー・スウィフトのことですね。テイラーに憧れてるけどテイラーにはなれない歯がゆさを感じながらも、そこから健気に自分らしさを見つけていくというストーリーを、ある種パロディ的に「Shake It Off」を意識したサウンドにのせて歌っていく曲ですね。
チャラン・ポ・ランタン「テイラーになりたいよ」 MV
小春「私にとっては〈テイラーになれないよ〉みたいな曲が許せない時期もあった。こういうのを自分から出すものじゃないだろう、みたいなね。昔から作ろうと思えば作れたんだけど、〈作詞・作曲:小春〉っていうものの作品にはちょっと違うから出さないみたいな。そんな風に自分から表現の間口を狭める傾向にはあって。もちろん今でも皮肉たっぷりな曲もたくさんあったりするんだけど、曲の位置づけが変わったのかな。あまり自分の近くに置かないことによって、いろいろ許せるものが増えたような気がするね」
──そういう小春さんの第三者的感覚が、チャランポの音楽にシアトリカルな要素を感じさせる一因じゃないかとも思うんです。それをももちゃんがいろんなキャラクターに変化して歌うという構造は、今作でますます研ぎ澄まされているというか。ももちゃんの歌の世界でさまざまなキャラクターを演じていく女優力みたいなところのスキルも、相当に上がってるんじゃないですかね。
もも「今までは自分でキャラクターを演じようとか、この人になりきろうみたいな感じで歌ってたと思うけど、今回のアルバムのレコーディングに関しては、そういう感覚ともまた変わってきたというか。演じようとしたり、考えたりしなくても、自分の引き出しから出てくるみたいな。そこがちょっと変わってきたのかなって思います。インディーズ時代の三部作は結構何度も歌ってテイクを重ねて、そのたびにちょっとよくわからないなって感じる部分もあったのに、今回はボーカルブースに入ってから悩んだりすることがなかったですね」
──小春さんから見た、ももちゃんのシンガーとしての成長ぶりは?
小春「いいんじゃないかな。最近は時々歌詞が飛ぶから、文句をつけるとしたらそこぐらい(笑)。それにしても、曲によっていろいろな声を出したりやキャラクターが変わったりして、普通にこんなやつ隣にいたらイヤだよね? 私の横には毎日こいつがいるんだよ!(笑)。こんなの彼女だったら、絶対うまくいかないと思うもん。どれが本当の姿なのかわからないし。誰のことも信じられないみたいになるんだろうな」
もも「ちょっと! 私と付き合ったら、そんな風になるの?(笑)」
小春「まあ、どの曲もももが全然すんなり歌えるようになったから、こちらとしてはもっと悩んで欲しかったな、みたいな感じはあるかも」
もも「ふふふ(笑)。簡単にこなせちゃったからね」
小春「だから、次はももがもっと悩むような曲を書こうと思う。だって、悩んだりしてるの横で見てると、すごく気分がいいじゃない? 苦しんでる人とか見ると、ざまあみろとか思うじゃん?(笑)」
もも「うわーーーー。こんな人には絶対なりたくない!(笑)」
小春「もちろん今回もものいろんな側面を引き出せた曲が作れたからよかったんだけど、きっと今回は『ももちゃんはこんな一面をすでに持っていましたシリーズ』もしくは『ももちゃんはすでにこんなに悪女だった!』みたいな感じなんだよ。だから今度はもものもっと奥にある部分を引き出すような曲を書きたいね。ライブについてもそう。ももは歌だけじゃ終わらせない。それがテーマだから。インストの時には踊ってもらったり。時には団長、時にはダンサー、時には語り部みたいな感じで。まあ、昨年末にやった〈チャラン・ポ・ランタンと崩壊バンド〉のツアーでも、その片鱗は少しお見せできたと思うけど。チャラン・ポ・ランタンの野望は、自分たちのサーカス団を作って自前のテントでツアーを回ることだから」
チャラン・ポ・ランタン official website
http://www.charanporantan.net/
チャラン・ポ・ランタン ツアー2016“唄とアコーディオンの姉妹劇場”
5月21日(土)広島・ゲバントホール
5月22日(日)福岡・住吉神社 能楽殿
5月28日(土)山梨・桜座
5月29日(日)栃木・HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
6月5日(日)岡山・岡山県立美術館ホール
6月10・11日(金・土)北海道・新札幌 サンピアザ劇場
6月18日(土)宮城・仙台 桜井薬局セントラルホール
6月24日(金)愛知・名古屋市芸術創造センター
6月26日(日)大阪・味園ユニバース
7月2・3日(土・日)東京・浅草 雷5656会館”ときわホール”
other schedule
7月24日(日)福岡・NUMBER SHOT 2016
8月6日(土)山梨・東京スカパラダイスオーケストラ presents トーキョースカジャンボリー vol.6
9月2〜4日(金〜日)東京・Slow LIVE ’16 in 池上本門寺(出演日は追って発表)
*詳細はチャラン・ポ・ランタン official websiteをご確認ください。
*本コラムは2016年2月5日に初回公開された記事に加筆修正したものです。