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” 変な歌 ”を構成するふたつの要素を、完全に満たしていた平山三紀「真夏の出来事」

2014.08.29

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流行歌の世界では、ときどき変な歌が突然現れてヒットすることがある。
《変な》というのは、言いなおせば《変に新しい》――つまり、いままであまり聴いたことのない曲想と、これまたユニークな歌い方の歌手と――二つが揃った歌のことで、私にいま、そのベスト・スリーを挙げろと言われたら、年代順に①月がとっても青いから(菅原都々子)②愛のさざなみ(島倉千代子)③真夏の出来事(平山三紀)ということになる。


”変な歌”についてかくも明快な定義づけをしたのは、『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』、『ムー一族』などの人気シリーズを筆頭に、テレビ史に残る数多くのテレビドラマを手がけたTBSの演出家、後に作家としても名を残した久世光彦だった。<注1>

1971年に発表された「真夏の出来事」は、作詞が橋本淳で作・編曲が筒美京平という、当時最強のソングライター・コンビによる作品だが、久世が言う”変な歌”を構成するふたつの要素を完全に満たしている。

16ビートでエレキベースが同じリフをイントロから最後まで弾き続ける上に、分離する左右のチャンネルから、リズムをキープするパーカッションとアコースティック・ギター、アクセントを効かせたハイハットとドラムが鳴っている。
そこから生まれるファンキーなグルーヴ感は、ヒントを得たと言われるモータウンの原曲よりも、ずっと強力で華麗なサウンドだった。

はっぴいえんどが日本語のロックに挑んでいた当時の音楽シーンにあっては、まぎれもなく「新しい音楽」であり、「カ~レの ク・ル・マ~に乗ッて」と鼻にかかった独特の乾いた声で、突き放すように歌うクールな平山三紀は、久世の言う「ユニークな歌い方の歌手」そのものだった。

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ヴォーカルを際立たせるホーンセクションとストリングスのアレンジもまた、アメリカの最先端のブラック・ミュージックに引けをとらない、筒美京平ならではの斬新さで洋楽好きな若者にまで支持された。

ライブハウス『銀座メイツ』で歌っていた平山三紀は、ユニークな声が認められてヒットメーカーだった二人に預けられ、1970年に「ビューティフル・ヨコハマ」でデビューしている。
デビュー後も秘蔵っ子としていかに大事に育てられたかを、当の橋本淳は謙遜しつつもこう語ったことがある。

僕は京平さんと何曲ぐらい曲作ってんのか分かんないんだけど、いい曲は全部みきちゃんに作ってるんです。
だからいい曲が出来ると、みきちゃん用に残しておくんです。
本当にすごい曲ばっかり並んでると思う、音楽的には。
詞はすごくボロいんですけど(笑)。


1960年代後半に登場して歌謡曲の黄金時代を牽引し、その後もアイドル歌謡曲やJ-POPへと音楽シーンが変遷していくなかで、コンスタントにヒット曲を生み出し続けた筒美京平は、日本最大のヒットメーカーと呼ばれる作曲家だ。

多くの関係者が当時の筒美京平について、常に新しい音楽を誰よりも早く吸収していたと証言しているが、本人は「新しい音楽」をつくることよりも、「売れる音楽」をつくることに注力していたという。

だからこそ筒美京平・橋本淳のコンビは、引き受けた歌手やアイドルの長所を見抜いて、その魅力を最大限に引き出す楽曲を作り、驚くほどの割合でヒット曲を量産することが出来たのだろう。

にも関わらず、その中から時代を超えていくつもの歌がスタンダードになったのは、メロディーメーカーとしての本来的な資質の高さと、意味ではなくイメージに重きをおいた普遍的な歌詞によるものだ。

実験的な曲や野心的な曲を次々に提供するソングライターの期待に応えた平山三紀は、今もステージはもちろん、CMや執筆の分野でも活躍している。

私が今も歌っていられるのは、そういうところにあるのかもしれないです。
お二人の歌は今歌っても、全然古い感じがしないから。
そのままを見てもらえるので、すごいなあと思います(平山三紀)



<注1>久世光彦の文章の引用元は、久世光彦著「みんな夢の中~続マイ・ラスト・ソング」文春文庫刊。なお久世光彦が手がけた『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』、『ムー』、『ムー一族』などの人気ドラマ・シリーズの中からは、天地真理の「みずいろの恋」、堺正章の「街の灯り」、浅田美代子の「赤い風船」、郷ひろみ・樹木希林の「お化けのロック」や「林檎殺人事件」といったヒット曲が誕生した。

<注2>橋本淳と平山三紀の発言は、いずれも「音故知心#3 ゲスト:橋本淳 平山みき」@阿佐ヶ谷ロフトA (2012.4.23)の筆者との対話からの引用。

ヒントを得たと言われるモータウンの原曲「恋はあせらず」


『ビヨンド~平山みき オール・タイム・ベスト』

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