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ちあきなおみが生で唄う演歌の名曲を使った久世光彦のドラマ『ちょっと噂の女たち』

2024.03.02

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昭和という時代を彩った人気テレビドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー一族』などの演出家で、プロデューサーでもあった久世光彦は、ドラマに使った劇中歌から「水色の恋」(天地真理)や「赤い風船」(浅田美代子)「昭和枯れすすき」(さくらと一郎)、「林檎殺人事件」(郷ひろみ・樹木希林)ほか、多くのヒット曲を送り出してきた。

そんな久世光彦がプロデュースと演出を手がけたものの、初回放送分を除いて映像が行方不明といわれる幻の連続ドラマがある。
1982年12月1日から1983年2月2日まで放映された1話完結の『ちょっと噂の女たち~川内康範「黒田軟骨の女難」より~』は、キー局が大阪のMBS毎日放送だったことと視聴率が思うように上がらなかったことから、今ではすっかり忘れられたドラマになってしまっている。

主人公は個人タクシーのドライバーである黒田軟骨(伊藤四朗)と、その兄貴分の花田秀次郎(梅宮辰夫)の二人。
そして各回ごとに魅力的で、しかも謎のあるマドンナ役が登場する。

マドンナに起用されたのは、いしだあゆみ、夏目雅子、研ナオコ、八千草薫、杉田かおる、岸田今日子、加藤治子、泉ピン子、大谷直子、小柳ルミ子、山本陽子と、昭和を代表する女優たちであった。
その意味では映画『男はつらいよ』シリーズにヒントを得て、葛飾柴又の寅さんをかなり意識して、月島を舞台にして作られた作品だった。

ドラマの脚本は原作者でもある川内康範のほか、市川森一、寺内小春、山田正弘が手がけていた。
そして行きつけの居酒屋の女将に扮したちあきなおみが、ときには重要な役どころを演じていながらも、劇中に必ず生で演歌を披露するのが決まりになっていた。 

久世は後にこんな文章を残している。
 

十年ほど前、川内さんの原作で「ちょっと噂の女たち」というドラマのシリーズをやったことがある。
毎回一つずつ、ちあきなおみが歌う演歌をテーマ曲とした洒落た人情話だった。
戦前のルネ・クレールの映画みたいなものを作りたくて、隅田川をセーヌ川、演歌をシャンソンに見立てたわけである。
成績はあまり良くなかったが、私はこのドラマが好きだった。
(久世光彦『ひと恋しくて―余白の多い住所録』中央公論社)


番組のテーマ曲選びには久世の同志ともいえる朋友、作詞家の阿久悠も加わっていたと当時のスタッフは証言している。
二人が選曲した演歌が毎回、ちあきなおみによって生ギターを伴奏にして劇中で歌われたのだ。
考えてみればなんともゼイタクな歌謡ドラマであった。

放送順に並べると次の10曲になる。

「矢切の渡し」(歌・ちあきなおみ 詞・石本美由起、曲・船村徹、一九七六年)
「落日」(歌 小林旭、詞 川内康範、曲 北原じゅん、一九六七年)
「悲しい酒」(歌 美空ひばり、詞 石本美由起、曲 古賀政男、一九六六年)
「おんな船頭歌」(歌 三橋三智也、詞 藤間哲郎、曲 山口俊郎、一九五五年)
「圭子の夢は夜ひらく」(歌 藤圭子、詞 石坂まさを、曲 曽根幸明、一九七〇年)
「浅草姉妹」(歌 こまどり姉妹、詞 石本美由起、曲 遠藤実、一九五九年)
「涙の酒」(歌 大木伸夫、詞 中山邦雄、曲 小池青磁、一九六四年)
「東京ブルース」(歌 西田佐知子、詞 水木かおる、曲 藤原秀行、一九六四年)
「命かれても」(歌 森進一、詞 鳥井実、曲 彩木雅夫、一九六七年)
「おんなの宿」(歌 大下八郎、詩 星野哲郎、 曲 船村 徹、 一九六四年)
 


久世光彦は失われゆく昭和の時代や人と人とのつながりへのこだわりを、演出作品の中でも小説やエッセイでも、くりかえし取り上げ続けた。

失われゆく昭和の匂いを演歌に託して、戦後の復興から高度経済成長を経て変わった隅田川の向こう側に対して、川のこちら側で暮らす人々が、互いに支え合って生きる情の世界を描いた『ちょっと噂の女たち』。

庶民的な演歌を最大限に活かした歌謡ドラマは、まさに久世光彦の真骨頂とも言える作品となった。
そして伊東四朗とともにレギュラー陣の主演だった梅宮辰夫が、艶のある中年男を演じて独特の色香を放っていたのも印象的だった。




*このコラムは2016年4月29日に公開したものに加筆修正したものです。

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