季節(いま)の歌

母の歌〜ロックの在り方を根底から変えることになった名曲の誕生秘話〜

2015.05.10

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毎年5月の第2日曜日は、母親にカーネーションやプレゼントを贈って日頃の感謝の意を表す記念日「母の日」です。
日本で最初に母の日が行われたのは、明治時代の末と言われています。
それが大正時代になるとキリスト教会や日曜学校で徐々に広がりを見せていきます。
そして昭和に入ると、大日本連合婦人会が結成されたのを切っ掛けに、皇后の誕生日の3月6日を母の日と定めました。
しかし、当時の母の日はそれほど国民には普及していなかったため、森永製菓が「森永母の日大会」と称し大々的な告知を行いました。
これが功を奏し、母の日は各地に広まっていきました。
さらに、昭和24年ごろからはアメリカに倣って5月の第2日曜に母の日が行われるようになり、これが一般的になったと言われています。
【豆知識Pressより】

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『マザー』をつくるにあたっては
いくつかアイディアがあったのですが
できあがったものを聞いてみると
ピアノがすべてをやってくれていて
あとは自分のマインドにまかせました。

〜中略〜

ピアノでひとつの音をだすと
そこにすべてのハーモニックがあるということは
誰でも知っています。
どんなミュージシャンでも教えてくれます。
私は、こういうところまできてしまったのです。
このようなシンプルさ以外には、
何も必要ではありません。

【ジョン・レノン(ビートルズ革命/片岡義男訳 1972年 草思社刊 )より】


♪「Mother」/ジョン・レノン



「Mother」は、1970年にジョン・レノンが発表した曲だ。
ビートルズ解散後初のソロアルバムとなった『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』のオープニングナンバーとして収録され、ビートルズファンに、いや世界に衝撃を与えた一曲である。
発表当初は「狂気じみている」との理由からアメリカでは放送禁止に指定され、その影響からビルボードのチャートでは最高43位にとどまったという。
その歌詞の内容、そして必要最小限のアンサンブルは、後のロックの在り方を根底から変えることとなった。


この歌のイントロは、鐘の音で始まる。
曲の始まりとして、これほど衝撃的な音は他にはないだろう。
テンポを落とした東洋の鐘が4回鳴り終えた瞬間、ジョンの叫ぶような歌声が聴こえてくる。

「このようなシンプルさ以外には、何も必要ないんだ。」

当時、ジョンはそのサウンドについての自信を語っている。
でもその一方で、ポールやジョージ抜きでサウンドを構築させる難しさも知ったという。
ジョンはポールのように器用なミュージシャンではない。
ピアノの演奏について言えば、我流そのものである。
ヨーコが「Imagine」の演奏をニッキー・ホプキンスにやらせようとしたのは有名な話である。
しかし優れた演奏というのは、テクニックだけではない。
この「Mother」は、それまでビートルズが試みてきたクリエイティブなサウンド作りを拒否するかのように最小のユニットで演奏されている。
ドラムがリンゴ・スター、ベースがクラウス・フォアマン、ピアノとボーカルがジョン・レノンという構成である。
この曲でのリンゴのドラムは実にシンプルである。
単調なビートを無機質にひたすら刻み続ける。
そのことによって、ボーカルとベースを浮かび上がらせることに成功している。
リンゴは“いかにもリンゴらしく”脇役に徹しているのだ。

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ジョン・レノンは1940年10月9日に生を受けた。
母親ジュリア(当時24歳)と結婚した時の父親アルフレッド(当時26歳)は船で臨時に雇われていたウェイターだった。
アルフレッドがジョンの側にいたのは2年間だけで、彼は母子を置いて姿をくらましてしまった。
ジュリアは別な男性を見つけ、ジョンは彼女の姉ミミに預けられた。
ところがジョンが5才の時、突然アルフレッドが舞い戻り「お父さんとお母さんのどちらと一緒に居たい」と選択を迫ったという。
はじめは父を選んだジョンだったが、その後、ジュリアに会い…やはりまだ幼いジョンは母を選んだ。
そして、アルフレッドはまた行方をくらませてしまう。
ジュリアは再びジョンをミミ夫婦のもとへ預け、一緒に暮らすことはしなかった。
しかしジュリアはジョンと別居するようになってからも、ほとんど毎日彼に会いに来た。
少しの時が流れ…1957年にジュリアはジョンにとって最初のギター、ギャロトーン (Gallotone) のチャンピオン (Champion) というアコースティックギターをプレゼントする。
それは“割れない補償”付きの安価なギターだった。

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ミミは賛成しなかったが、ジュリアはジョンのロックンロール好きに理解を示し、彼がクオリーメン(ザ・ビートルズの前身バンド)で演奏する姿も観に行ったという。
そしてジョンが17歳となった1958年7月15日、別れは突然やってきた。
ジュリアはいつものようにミミの家を訪れていた。
夜になって帰宅するためにバス停に向かう途中、車にはねられてこの世を去ってしまう。44歳だった。
ジョンの幼馴染みのナイジェル・ウォーリーは後年、事故について語った。


あの日の晩、僕はジョンを誘いに行ったんだ。
でも彼の叔母さんのミミは、ジョンは出かけたと言う。
ミミは帰ろうとするジュリアと門前で立っていた。
僕らは立ち話をして、ジョンのママは「いいわ。あなたに私をバス停までエスコートする特権をあげる。」と言った。
「光栄です。喜んで。」と答えた。
僕らは一緒にメンローヴ通りを下って行き、僕は途中で僕の住んでいるヴェイル通りにそれたんだ。
その道を15ヤードほど登った時、車がスリップする音が聞こえた。
とっさにふり返るとジョンのママが宙に浮いているのが見えた。
走って戻ったが、彼女はもう死んでいた。



幼年期からの体験、そして、あまりにも突然で衝撃的な母の死によって、ジョンは心のある部分に鍵をかけてしまった。
満たされない思いと、誰にも打ち明けることのできない傷を抱えながら…ジョンはビートルズのメンバーとして世界から注目される存在となった。
そしてヨーコとの出会いとビートルズの解散によって、この「Mother」に辿り着いたのである。
この曲によって、ジョンは初めて重苦しい過去から解放されたのだ。
ビートルズが実質的に解散したと言われている1970年、ジョンはアーサー・ヤノフという精神科医によって原初療法(プライマルスクリーム)を受ける。
当時のことをジョンはこう回想している。

「恐怖や苦痛を追い出す回路が一つできただけなのさ。それらはもう僕の体内に残らないんだ。体内をめぐって出ていってしまうのさ。」

「絶え間なく感情を感じ取れるようにしてくれたんだよ。感情が感じ取れると、たいてい泣きたくなってしまうんだけどね。」


プライマルスクリームは、ただ感情を出して泣くだけでは駄目で、その奥にある本当の痛みを自覚しなければならなかった。
ジョンはこの療法を集中的に受けて子供の頃の苦痛を再体験したのだ。
治療によって自分を取り戻したジョンは、アルバム『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』を生み出し、この「Mother」という曲を書き上げたのだ。

♪「Mother」/ジョン・レノン(LIVE)

Mother, you had me but I never had you
I wanted you, you didn’t want me
So I, I just got to tell you
Goodbye, goodbye

お母さん 僕はあなたのものだったけど
あなたは僕のものではなかった
僕はあなたを求めたけれど
あなたは僕を求めなかった
だから言うよ…お母さん「さようなら」

Father, you left me but I never left you
I needed you, you didn’t need me
So I, I just got to tell you
Goodbye, goodbye

お父さん あなたは僕を捨てたけれど
僕はあなたを捨てられなかった
僕はあなたが必要だったけれど
あなたは僕を必要としなかった
だから言うよ…お父さん「さようなら」

Children, don’t do what I have done
I couldn’t walk and I tried to run
So I, I just got to tell you
Goodbye, goodbye

子供たちよ
僕の失敗を繰り返さないで
僕は満足に歩けもしなかったのに
無理に走ろうとしたのさ
だから君たちに言うよ…「さようなら」

Mama, don’t go
Daddy, come home

お母さん、いかないで!
お父さん、戻ってきて! 


ジョン・レノン『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』

ジョン・レノン
『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』

(1970/EMI)


<季節(いま)の歌>では、この時期、この季節、こんな日に「聴きたい・聴かせたい」一曲を(お題として)ご紹介します♪
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