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キースの手引きで再会したチャック・ベリーとその相棒

2024.04.12

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「ロックンロールを創造した者を一人に断定することはできないが、それに最も近い存在はチャック・ベリーである」


1986年に始まったロックの殿堂。
その第1回でチャック・ベリーが殿堂入りを果たした際に、これまでの功績を讃えて送られたのがこの言葉だ。
ビートルズやローリング・ストーンズをはじめ、チャック・ベリーの影響を受けたミュージシャンを挙げればキリがない。

この年はチャック・ベリーが60歳という節目を迎える年でもあった。
そこで誕生日である10月18日にバースデイ・コンサートを催し、一部始終をフィルムに収めてドキュメンタリー映画にするという企画が立ち上がる。

監督のテイラー・ハックフォードは、チャックと親交の深いキース・リチャーズに音楽監督を依頼した。
そのとき、キースの脳裏にはある言葉がよぎったという。

「ジョニー・ジョンソンはまだ達者で、今でもセントルイスで弾いてることを忘れる」


それはストーンズのオリジナル・メンバーであり、ピアニストとしてバンドをサポートしてきたイアン・スチュアートが晩年に残した言葉だった。

ジョニー・ジョンソンは、長年に渡りチャック・ベリーのバックを務めていたブルース・ピアノの名手だ。

1924年生まれのジョニーは4歳からピアノを弾き始め、1952年には自身のバンド、サー・ジョン・トリオを結成する。
その年の終わりにチャック・ベリーが加わると、彼の並外れたギター・プレイとパフォーマンスによってバンドは人気を集め、ブルースの名門、チェス・レコードと契約を果たす。

このときにチャック・ベリーがメインとなり、ジョニーたちはそのバック・バンドという関係に変わった。
その後、チャックとジョニーは2人で次々と曲を書いていき、数多くの曲をヒットさせていく。

しかし、1973年にチャックからクビを言い渡されると、ジョニーは音楽業界から距離を取り、バスの運転手として働きながらピアノを弾く気ままな生活を送っていた。

チャック・ベリーに最高のバンドを用意するなら、ピアノはジョニー・ジョンソンをおいて他にいない、そう確信したキースは、チャックにジョニーのことを訪ねた。

「あんたらの関係を知らないから、これがいい質問かどうかはわからないが、ジョニー・ジョンソンは今でもこの辺にいるのかい?」

「この町にいるんじゃないか」

「いや、じつはもっと大事なことがあるんだ、おたくら二人、いっしょに演れないか?」

「いいぜ。胸くそ悪いが、まあ、しかたねえ」


チャックの中では思うところがあったようだが、それでも了承したのはジョニーの腕を誰よりも認めていたからだろう。こうしてキースの手引きにより、2人は13年ぶりに同じステージに上がることとなった。

「あの緊張の一瞬で、俺はジョニー・ジョンソンとチャック・ベリーのよりを戻すことに成功した。無限の可能性だ。あのときのチャックはいい判断をしたと心底思うぜ。あれで最高のバンドと映画の両方が手に入ったんだからな」


1986年10月16日、セントルイスのフォックスシアターで催されたバースデイ・コンサートには、エリック・クラプトンやリンダ・ロンシュタットなど数多くのゲストが参加し、チャック・ベリーにとってこの上ない最高のライブとなった。

ステージでは数多くのヒット曲が演奏されたが、その中でもっとも知られているだろう「ジョニー・B・グッド」は、その名の通りジョニー・ジョンソンにインスパイアされて生まれた曲だ。
ジョニーによれば、基本的には2人で曲を仕上げていたが、この曲はチャック1人で書いたものだという。

バースデイ・コンサートではジョン・レノンの息子ジュリアン・レノンがゲストで登場し、白熱のステージを展開する。
途中ではチャックがキースを小突いて挑発するシーンも見られるが、「モハメッド・アリばりの消耗戦術(ロープ・ア・ドープ)」でこらえてサポートに徹したそうだ。


このコンサートをきっかけにスポットライトが当たったジョニー・ジョンソンは、翌1987年にキース、クラプトン、そしてジョン・リー・フッカー、ボ・ディドリーらとともに『Blue Hand Johnnie』を発表、62歳にしてレコード・デビューを果たす。

キースの手引きによってチャック・ベリーは最高のバンドとともにコンサートを成功させ、ジョニー・ジョンソンはミュージシャンとしての新たな人生を手に入れたのだった。

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参考文献:「ライフ」キース・リチャーズ著 棚橋志行訳(2011年発行)

(このコラムは2015年8月18日に公開されたものです)


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