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TAP the LIVE

レオン・ラッセルによって窮地から救われたジョー・コッカーと集ったミュージシャンたち

2016.11.22

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ジョー・コッカーが母国のイギリスから海を超えて、ロサンゼルスへと休暇にやってきたのは1970年3月上旬のことだった。

前年の夏に出演したウッドストック・フェスティバルとワイト島フェスティバルで、ジョーは渾身のパフォーマンスで拍手喝采を浴びて、アメリカでの人気と知名度は着実に上がった。
マネージャーがこのチャンスを逃すまいと、間髪入れずに秋から年末にかけて全米ツアーを組んだため、ハードスケジュールな日々が続いていた。
それまでバックを務めてくれたグリース・バンドに別れを告げたジョーは、年が明けてからロサンゼルスで少し羽を伸ばして、ゆっくり新しいバンドのことを考えるつもりだった。

ところが着いて早々にマネージャーから伝えられたのは、全52公演の2ヶ月近いツアーが8日後に始まるという驚きの事実だった。

当然のことながらジョーは乗り気にならず、キャンセルできないかと相談した。
だが、ツアーをキャンセルすることで生じるトラブルやデメリットをあれこれと並べられると、しぶしぶ承諾せざるをえなかった。
このときジョーには時間はおろか、バンドすらもない状態だった。

そんな窮地を救うために動いてくれたのが、ジョーのセカンド・アルバムを手掛けた友人、レオン・ラッセルである。
緊急事態を知らされたレオンは、ツアーの音楽監督を引き受けると同時に、ツアーに参加できそうな知り合いのミュージシャンたちに声をかけた。

急なオファーにもかかわらず、デラニー・アンド・ボニーのツアー・サポートで一緒だったカール・レイドルとジム・ゴードンのリズム隊、サックスのボビー・キーズ、コーラスのリタ・クーリッジをはじめ、なんと20人以上ものミュージシャンたちが集まった。
ドラムにいたっては3人も集まったので、プロデューサーからは1人で十分だろうと反対されたが、「誘っておいて断ることなんてできない」とレオンは却下する。

ジョーがツアーのことを知らされた翌日から早速リハーサルが始まった。
それでもツアー初日までは1週間しかなく、時間が足りないのは誰の目から見ても明らかだった。

そんな状況にもかかわらずミュージシャンたちは次々と曲を仕上げて、シングルのレコーディングまでもこなしてしまった。
それは卓越した腕を持つミュージシャンたちをまとめあげていく、レオンへの信頼があってこそなせる業だった。

急遽編成されたこの大所帯のバンドは、マッド・ドッグス&イングリッシュメンと名付けられた。
1930年代にイギリスで書かれた歌のタイトルからとったもので、「こんな暑い日差しの中で外を出歩くのは世界で狂犬とイギリス人だけ」という歌詞の内容から、イギリスでは暑いときに使われる言葉だ。

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一時はどうなることかと思われたジョーの全米ツアーだったが、蓋を開けてみれば1週間前に結成されたとは思えないほど、実に息の合った演奏を繰り広げて各地を熱狂させていった。
その模様は3月27日から2日間、ニューヨークのフィルモア・イーストで行われた公演が撮影された。

演奏曲の大半はカバーで、ローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」やビートルズの「レット・イット・ビー」、レナード・コーエンの「バード・オン・ワイヤー」といった直近のヒット曲から、オーティス・レディングやボブ・ディラン、オールディーズに至るまで時代もジャンルも多岐にわたっている。
それらが大人数だからこそ生み出せる厚みのある演奏で生まれ変わり、ジョー・コッカーがそれに負けじと力強くソウルフルにシャウトする。

ドラマーの1人として参加したジム・ケルトナーは、「ビッグでワイルドなパーティー」とのちに振り返っている。
まさに狂乱ともいうべき圧巻のライブだった。

♪Honkey Tonk Women



このときの録音はライヴ・アルバム『マッド・ドッグス&イングリッシュメン』としてリリースされて、アメリカではジョーの生涯で最高位となる2位を記録、母国イギリスでも過去最高の16位にまで上昇した。

ツアーが終わると、参加したミュージシャンたちはそれぞれの道を歩き始めていく。

カール・レイドルとジム・ゴードンはエリック・クラプトンとともにデレク・アンド・ザ・ドミノスを結成する。
リタ・クーリッジは翌年、ソロでデビューすることになる。
ボビー・キーズはローリング・ストーンズのサポート・メンバーとして名を馳せる。

ジョー・コッカーが追い込まれた窮地は、結果として超一流のミュージシャンたちによる束の間のパーティーとなり、未来への道につながったのだ。


♪Something


Joe Cocker『Mad Dogs & Englishmen』
A&M

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