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暗雲の漂う大舞台で渾身のパフォーマンスを披露したホイットニー・ヒューストン

2024.02.10

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アメリカでもっとも人気のあるスポーツといわれるアメリカン・フットボール。

その優勝決定戦、スーパーボウルはアメリカの年間最高視聴率を記録するほどに注目され、まさに国民的イベントとなっている。
勝敗の行方はもちろんだが、試合だけでなくハーフタイムに行われるショーも見どころとなっており、中でもマイケル・ジャクソンが披露したパフォーマンスは伝説的なパフォーマンスとして語り継がれている。

詳しくはこちら【マイケル・ジャクソン~伝説のハーフタイムショー】

アーティストが登場するのはハーフタイムだけではない。試合前に歌われる国歌「星条旗」もまたパフォーマンスを披露する場となっており、これまでアーティストごとに多種多様なアレンジが試みられてきた。

その中で歴代最高のパフォーマンスはどれか、というのは様々なメディアによって発表されてきたが、2位までは各紙によって順位が変わったりするものの、1位には満場一致で1991年のホイットニー・ヒューストンが選ばれている。

プロのシンガーたちの中にあっても頭一つ抜きん出た歌唱力が存分に発揮された、このパフォーマンスが1位に選ばれることに異を唱えるものはいないだろう。

しかし、本番前に関係者たちが抱いていたのは期待ではなく不安だった。

ホイットニーはスーパーボウルで国歌斉唱してほしいというオファーがきたとき、すぐに音のイメージが湧いたという。
どれだけの砲弾が飛んでこようと星条旗は折れることなく翻っているというこの歌に、幼い頃から教会で歌ってきたゴスペルのエッセンスを取り込みたいと感じたのだ。

長年に渡って彼女の音楽をサポートしてきたディレクターのリッキー・マイナーは、3拍子のワルツである「星条旗」を4拍子にしようと提案した。そうすればたっぷりと息を吸う時間が得られて、よりソウルフルな歌に仕上がると考えた。

そして本番直前となった1991年の1月、オーケストラによるアレンジも完成し、実際にスタジオで歌ってみて、ホイットニーらはその仕上がりに確かな手応えを感じる。

しかし、その音を聞いたナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の幹部たちは難色を示した。
戦時中にこのような派手なアレンジは、不謹慎ではないかと考えたのである。

1991年の1月、それはアメリカを中心とする多国籍軍がイラクへの爆撃を開始、つまりは湾岸戦争が始まった月だった。
懸念を抱く理由はもうひとつあった。前年のスーパーボウルにおける国歌斉唱で、かつてないほどの大ブーイングが巻き起こってしまったのだ。

そうした背景もあって、NFL側はアレンジをもっと質素なものにするよう要望する。もっとも、その要望はホイットニー側に伝わる前に、スーパーボウルのエンターテイメントを手がけるプロデューサーによって却下されるのだった。

そして本番当日となった1月27日。
スタジアムには7万人以上の観衆が集まっていた。

その大観衆を前にNFLはおろか、ホイットニーとともにアレンジを作り上げて自信を持っていたリッキーでさえも、もしブーイングが起きたら、という不安に駆られた。

そんな、多くの人たちの脳裏に去年のブーイングがよぎる中、ホイットニーは歌い始めたのである。



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