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歌のモデルとなった家出少女、メラニー・コーの追想part2

2016.04.14

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【part1はこちらからどうぞ】


母親がガウンに袖を通す頃
父親はまだいびきをかいている
書置きを拾いあげ
階段の上に立ち尽くした彼女は
泣き崩れ、夫に叫ぶ
「お父さん、あの子が出て行ってしまったの
どうして、こんな無鉄砲なことができるの
どうして、私たちにこんな仕打ちができるのよ」

メラニー・コーが17歳になった頃、ロンドンの若者たちの間ではTシャツが流行っていた。アンドレ・クレージュの影響もあってか、フランスものも人気があった。胸にフランス語の文字が刻まれたTシャツは、メラニーにとって最強の組み合わせだった。

だがある日、メラニーが家に帰ってみると、お気に入りのTシャツにリボンが縫いつけられていた。メラニーは失神しそうになった。
「母親は私に、アン王女のような服を着せたがっていたの」と、メラニーは語っている。
「私はといえば、マリアンヌ・フェイスフルみたいな格好がしたかったのに」

マリアンヌ・フェイスフルは、ストーンズの「涙あふれて」でデビューしたシンガーで、ミック・ジャガーとの仲も噂されたものだが、彼女の母親はハプスブルグ家の血を引く名門貴族の家系である。メラニーは、どこかでマリアンヌにも自分を重ね合わせていた。

そして、もうひとつ、事件が起こった。
彼女が隠し持っていた避妊用ピルが両親に見つかってしまったのだ。
父親は彼女の首根っこをつかみ、トイレに連れていくと、ピルを便器に捨て、流させた。その瞬間、彼女の何かが一緒にトイレの溝に流れ落ちていったようだった。

この事件は後に、新たな悲劇を生むことになる。
メラニーは家に帰りたくない、と思うようになっていた。
一晩中踊り明かす夜もあったし、ミュージシャンに声をかけられ、一夜を過ごすこともあった。
そして、いよいよ彼女は家を出る決心をする。


金曜の朝
彼女はもう家からは遠い場所にいる
自動車販売をしている男と
会う約束をしているのだ

実際、メラニーが家を出て最初に向かったのは、病院だった。体調がおかしい、と感じていたからだ。そしてその体調不良の原因は、妊娠だった。もう、家へは帰れなかった。
彼女は友人を頼った。ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアとつきあっていた彼女の友人は、顔が広かったからだ。そこからメラニーは居場所を転々とすることになる。


彼女は (私たちは自分たちのことなど考えてこなかった)
家を  (けっして自分たちのことなど考えてこなかった)
出ていく(ただ必死に働いて日々を送ってきただけなのに)
彼女は家を出ていく
ずっと孤独な生活をしてきたのだから(バイバイ)

だが、結局、3週間後、メラニーは両親に見つかり、家へ連れ戻されることになる。そしてお腹の子供は堕胎した。彼女の青春が終わった時だった。

「それにしても、どうしてポールはあんな歌詞が書けたのかしら」と、メラニーは語っている。
「私が孤独だった、ということよ。父親は最初、私が誘拐されたと思ったそうよ。コートも車も買い与えているのに、どうして家出する理由があるんだって。私には、そう、歌詞にあるように、愛がなかったの」

メラニーの両親はずいぶんと前にこの世を去っている。彼女は最後まで母親と仲直りができなかったという。そして今でも「シーズ・リーヴィング・ホーム」を聴くことはできないのだと。

「それにしても、本当に不思議だわ。もしかしたらポールは、新聞に載った私の写真を見て、13歳だった私があの時の女の子だって、ピンときたのかしら。。。」




ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』
EMI

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