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月の輝く夜に〜歌手シェールがアカデミー主演女優賞を取ってしまった映画とは?

2017.04.11

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大都市に住んでいる方にはお馴染みのタワーマンション群。日中、至る所で背を伸ばしていく建築模様はすでに珍しくなくなったし、夜ともなればいくつもの窓に灯りがついて、その眺めは高層オフィスビルや電波塔やブリッジと並んで都市の夜景には欠かせない一部にさえなっている。

そこに住んでいない人は時々こう思う。あの灯りの中には温かい家庭があり、家族団欒で楽しい会話が飛び交い、健康的で美味しい食事がテーブルに並べられているに違いないと。

でも現実はどうだろう? 単身者の独り暮らし、共働き夫婦、高齢者の引退後の住居など、とても家族団欒とは程遠い空間の方が遥かに多い。祖父母がいて子供がいてというような完全な家族を形成するなんて、日本各地の出身者が集まって暮らしている都市ではもはや困難だ。おまけに値段も溜息が出るほど高い。そこからの眺望は確かに素晴らしいが、心の風景まで家族の絆や愛が描かれているとは限らない。

映画『月の輝く夜に』(MOONSTRUCK/1987)は、大都市で生きながらも家族であろうとすること、一つになろうとすること、その大切さと素晴らしさをまっすぐに教えてくれる作品だった。そして単なるロマンチック・コメディの枠を超え、“人としての心のあり方”を伝えてくれた貴重な名作でもある。

主演はシェール。1960年代にソニー&シェールでデビュー後にソロ活動を並行し、独特なヴィジュアルアプローチをするポップスターとしても異彩を放っていた彼女は、もともとは俳優志望。本作品では遂にアカデミー主演女優賞を取ってしまった。それくらいハマり役だった。

物語はNYのイタリア人街が舞台。ロレッタ(シェール)は37歳で未亡人のワーキングウーマン。両親と犬好きのちょっと風変わりな祖父と4人暮らし。親戚もよく顔を見せるので、食卓はいつも賑やかだ。ただ、父親は浮気をしていて母親もそれに気づいているので、夫婦の関係は崩壊寸前にある。

ある夜、レストランでの食事中にジョニー(ダニー・アイエロ)から結婚を申し込まれて快諾。すぐさまジョニーは危篤状態にある母親がいるイタリアへ出向くが、ロレッタは彼から険悪な関係にある弟ロニー(ニコラス・ケイジ)に会って、自分たちの結婚式に参加するよう説得しておいてほしいと頼まれる。

翌日、パン職人をしているロニーに会いに行ったロレッタだったが、ロニーの魅力にやられて説得どころか恋に落ちてしまう。ロニーもロレッタに夢中だった。満月が輝く夜にベッドを共にしてしまう二人。翌朝、過ちに後悔するロレッタ。ロニーは大好きなオペラを一緒に観てくれたら、すべてを忘れると約束する。

ロレッタはオペラ鑑賞のために、美容院でヘアースタイルを変え、ブティックで新しい洋服を買う。なぜか心が躍るのだった。ロニーを愛してしまった。ジョニーにどう説明したら? 一方で母親は食卓で父親に浮気の件を切り出す。そんな時、ジョニーがイタリアから戻って来る……。

映画の見どころは、やはりオペラのシーンだろう。ロニーに誘われたロレッタがお洒落をして出向くのは、コンサートホールやオペラハウスなど芸術のための施設が集約されたリンカーン・センター内にあるメトロポリタン歌劇場。

ちなみに二人が観るのはプッチーニの『ラ・ボエーム』で、これは1830年頃のパリが設定の悲恋物語。貧しい芸術家ロドルフォが女ミミに恋をするが、いずれ彼女はこんな生活が嫌になって金持ちのもとへ走るかもしれないという不安に覆われる。ミミは貴族の愛人になるが、瀕死の状態でロドルフォのもとに帰って来る。二人の心はまだ愛し合ったままだった。しかし運命は非情、という内容だ。

映画でも全編に渡ってオペラ『ラ・ボエーム』の音楽がロレッタとロニーの心境に合わせて効果的に使われている。また、映画の始まりと終わりでイタリア系のディーン・マーチンが歌う陽気な歌「That’s Amore」が流れるのも忘れ難い。

瞳に映るのはピザのような月
恋の魔力 ワイン色の人生
鐘が鳴り響き 人生に乾杯
ときめくリズム はずむステップ
恋はパスタ 心魅かれる
雲の上で二人でダンスを
夢のような恋をしよう
ナポリの街で 愛に生きよう


メトロポリタン歌劇場での『ラ・ボエーム』公演シーン


ディーン・マーチンの「That’s Amore」は恋の歌/strong>

『月の輝く夜に』

『月の輝く夜に』


*日本公開時チラシ
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*このコラムは2015年2月18日に初回公開されました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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