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ガープの世界〜“人生のアップデート”を力強く優しく描いたミリオンセラー小説の映画化

2018.11.21

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一度観た映画を観直す人は少なくないと思う。「あの映画、また観たいな」と積極的にストリーミングサービスを利用したり、DVDを購入・レンタルする場合。そしてたまたまテレビの深夜放送を眺めていた時や、無料だからといって何となく視聴ボタンをクリック・タップしてしまう場合。特に後者は「あったな、この映画」のような感覚で突然懐かい気持ちになり、当時の自分を思い浮かべたりする。期待感がなかったぶん、どこか心地良さにも包まれる。

『ガープの世界』(The World According to Garp/1982)はまさにそんな映画だった。主人公ガープの数奇な人生を断片的なエピソードで描いていくこの物語は、性的・社会的な暴力に対する怒りのテーマが色濃い反面、子供好きで愛妻家という家庭回帰の幸福感も貫かれている。ハッピーエンドでないにも関わらず、現実から目を背けない精神、ユーモア、少数派であるマイノリティへの眼差しなどによって、観ている者はいつの間にか“ガープの世界”に魅了される。ストーリーの力を感じるのだ。

原作はジョン・アーヴィング。1942年にニューハンプシャー州に生まれたアーヴィングは、幼い頃から母子家庭で育つ。13歳からレスリングを始め、大学卒業後はカート・ヴォネガットに師事して作家を目指した。1968年にデビュー作『熊を放つ』を出版。大学で教職に就きながら作品を発表し続ける。

1万部弱しか売れなかった小説家に転機が訪れたのが1978年。4作目の長編『ガープの世界』がミリオンセラーに。アーヴィングはようやく創作に専念できるようになった。ほかに1981年の『ホテル・ニューハンプシャー』や1985年の『サイダーハウス・ルール』も映画化された。

『ガープの世界』はゲラ刷りの段階で、当時のワーナー副社長マーク・ローゼンバーグによって決定されていた。周囲からこの小説をどうやって映像化するのかと笑われたそうだが、本作の監督を引き受けるジョージ・ロイ・ヒルでさえ当初はそんな懐疑派の一人だった。だが無理と言われればチャレンジのしがいがあるもの。

明日に向かって撃て』『スティング』『スラップ・ショット』『スローターハウス5』を手掛けてきた監督は、アドリブのコメディアンであるロビン・ウィリアムズを最初からガープ役に想定し、脚本作りに着手。ウィリアムズ特有の演技の幅広さや基礎の固さに絶対の信頼を寄せていた。

なお、アーヴィングはレスリングのコーチ、ヒル監督は新居に飛行機で突っ込むパイロットに扮してカメオ出演。オープニングで流れるのはビートルズの「When I’m Sixty-Four」。エンディングにはナット・キング・コールの「There Will Never Be Another You」が使われている。

物語は、第二次世界大戦中に従軍看護婦だったジェニー(グレン・クローズ)が赤ん坊を抱いて実家に帰ってくるところから始まる。子供が欲しいだけで男に縛られた生き方をしたくなかった彼女は、運び込まれてきた瀕死の兵士に一方的な性行為を仕掛け、妊娠したのだ。相手の素性を知らぬまま死んだので、赤ん坊はテクニカル・サージェント(三等曹長)に因んで「T.S.ガープ」と名付けた。ジェニーの両親が驚いたのは言うまでもない。

女手一つで苦労しながらも、ジェニーは東部にある全寮制エリート学校の主任看護婦の職を得て、幼いガープを育てていく。やがて青年となったガープ(ロビン・ウィリアムズ)はレスリングに夢中になり、コーチの娘ヘレンに恋をして、彼女が望む小説家になることを決意して短編執筆に没頭する。

その後、母子はニューヨークに渡って新生活を始める。小説家になるためだ。しかし、自らの半生を綴ったジェニーの本『性の容疑者』が出版されてたちまちベストセラーに。性差別に反対する女性運動家たちの共感を読んで、フェミニストの指導者として祭り上げられる。莫大な印税を得ると大きな家を買い、虐げられた女性たちのために社会復帰施設として解放した。

一方、小説家となったガープはヘレンと結婚。「君を小さい時から知っていればよかった。胸が膨らんで娘らしくなっていく姿が見たかったな」と言うと、ヘレンは「これからは髪が白くなって、シワも増えていくのが見れるじゃない」と返す。二人は愛し合い、二人の子供に恵まれる。ヘレンが大学の教授職に就き、執筆の合間にガープが主夫をするという生活が続く。

ガープは施設で知り合った、元フットボール選手として有名で今は性転換手術によって女性になったロバータと仲良くなり、家族ぐるみの付き合いを始める。だが、ヘレンは学生と浮気関係に陥り、夫婦関係の溝が次第に深まっていく。事実を知って我を見失ったガープは、ヘレンが車の中で学生とオーラルセックスをしているところに、二人の子供を乗せた車で突っ込むという事故を起こす。ヘレンは相手のペニスを食いちぎり、長男は死に、次男は片目を失った。

この件で精神的に追い詰められ、口もきかなくなった二人だったが、ジェニーとロバータの協力で、夫婦は再び愛を取り戻す。そしてヘレンが女の子を産んだ後、ジェニーは公園での演説中に反フェミニストの凶弾に倒れる。母親の死という悲しみを乗り越え、作家業のかたわら、母校のレスリングコーチに就任するガープ。しかし、彼もまた狂信的なフェミニストとなった幼馴染みの女に撃たれて、33歳の人生の幕を閉じるのだった。

予告編


『ガープの世界』

『ガープの世界』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ガープの世界』パンフレット、『たのしく読めるアメリカ文学』(ミネルヴァ書房)

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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