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吉田拓郎と岡本おさみとの闘争から生まれた「望みを捨てろ」~〈吐きすて〉の歌の系譜⑧

2018.09.21

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岡本おさみとの協同によるソング・ライティングについて、吉田拓郎は「あの頃いつも俺は不愉快だった(笑)」と述べていた。

ここでいう「あの頃」とは、岡本とのコンビを組んでつくった「旅の宿」がヒットした1972年から、森進一に書き下ろした「襟裳岬」が日本レコード大賞を受賞することになった1974年頃までのことを指している。
拓郎が不愉快だったというのは自分が歌で書きたいと思っている詩を、いつも岡本が先に書いしまっていると思っていたからだという。

ある時期になると、そろそろ次のLP作ろうって話がレコード会社からくるわけ。
で、じゃあやるか、ということになると、今度は自分で詩を書くか、それとも岡本おさみに頼むかってことを必ずディレクターがきいてくるわけよ。
俺は「自分で書くよ」って一応いつも言ってたんだけど、書こうと身構えて考えてみると、でも、このテーマは岡本ちゃんがすでに書いているしな、なんて問題にぶちあたる。
表現の仕方は違っても、テーマというかルーツが同じだというものを、先へ先へと書かれてしまっている。
そうすると、もうダメ、書けなくなっちゃう。
そういうことが『元気です』『伽草子』『ライブ73』とずっと続いてきたともいえるね。
いつも俺の書きたかったテーマを半歩先きに書かれてしまっていたという感じだ。


だからときには自分で作った詩だったかなと、錯覚することも度々あったらしい。
本人が自が書いたと錯覚するくらいだったから、リスナーたちの間でもかなりの多くの人が、拓郎の作詞・作曲だと思っていた曲があったはずだ。

1973年12月21日にリリースしたアルバム『たくろうLIVE ’73』は、その年の11月26日と27日に東京の中野サンプラザホールで行われたライブを収録した作品だが、通常のライヴ・アルバムとは成り立ちが違っている。

1,「春だったね’73」
作詞:田口叔子 作曲:吉田拓郎
2,「マークⅡ’73」
作詞:吉田拓郎 作曲:吉田拓郎
3,「君去りし後」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
4,「君が好き」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
5,「都万の秋」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
6,「むなしさだけがあった」
作詞:田口叔子 作曲:吉田拓郎
7,「落陽」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
8、「雨が空から降れば」
作詞:別役実 作曲:小室等
9,「こうき心’73」
作詞:吉田拓郎 作曲:吉田拓郎
10、「野の仏」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
11,「晩餐」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
12,「ひらひら」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎
13,「望みを捨てろ」
作詞:岡本おさみ 作曲:吉田拓郎


全ての編曲は瀬尾一三と村岡建によるもので、全13曲のうちで9曲(1,2,8,9,を除く)が、このアルバム用に書き下ろした新曲であった。
演奏は田中清司(Dr)、岡沢章(B)、高中正義(EG)、常富喜雄(AG)、田口清(AG)、松任谷正隆(Kb)、栗林実(P)、内山修(Per)といったメンバーたちに、ストリングスとブラスセクションという、当初からレコーディングを想定した編成だった。



そのアルバムの最後に入っていたのが「望みを捨てろ」、岡本ならではの典型的な〈吐きすて〉の歌である。

ひとりになれない ひとりだから
ひとりになれない ひとりだから
妻と子だけは 暖めたいから
妻と子だけは 暖めたいから
望みを捨てろ 望みを捨てろ

ひとりになれない ひとりだから
ひとりになれない ひとりだから
我が家だけは 守りたいから
我が家だけは 守りたいから
望みを捨てろ 望みを捨てろ


この歌詞と初期の代表作「今日までそして明日から」を比べると、確かにふたりのテーマや表現方法には近いところがあるとわかる。
ただし「望みを捨てろ」には岡本作品らしい生活の重みがあるので、そのぶんだけタッチが強めになってしまう。

しかし拓郎の初期の作品はどれも溌剌としていて、若さがみなぎっているせいだろうか、いつでも爽やかさな風が吹いている感じがした。
だからこそリスナーの耳にも、拓郎が歌を奏でるときの音楽的な快感が、誰にでもわかりやすい形で伝わってきたのだろう。

「今日までそして明日から」
 作曲・作詞:吉田拓郎
 
わたしは今日まで生きてみました
時にはだれかの力をかりて
時にはだれかにしがみついて
わたしは今日まで生きてみました
そして今 わたしは思っています
明日からもこうして生きて行くだろうと

わたしは今日まで生きてみました
時にはだれかをあざ笑って
時にはだれかにおびやかされて
わたしは今日まで生きてみました
そして今 わたしは思っています
明日からもこうして生きて行くだろうと


飾らない言葉で自らの心の内を正直に語っていくことによって、そのまま貯めていったら重くなってしまう思いを、自分にまとわりつかないように上手に外へ吐きすてるという意味で、これも拓郎ならではの〈はき捨て〉の歌だった。

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