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「ゲッティング・ベター」~他のバンドと圧倒的に違っているビートルズならではのコンビネーション

2017.05.26

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ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』には、トリップ・ミュージックの代表作ともいわれる「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」が3曲目に出てくる。

現実とは異なる童話的で幻想性にみちた世界で歌われるジョン・レノンのヴォーカルは、とげとげしさがなく耳元で囁いているようにソフトだ。

そしてさまざまなサウンドのエフェクトに彩られた「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」が、不思議な安らぎを感じさせながらフェードアウトにて終わっていくと、歯切れよく一拍ずつ「♪キャッ・キャッ・キャッ・キャッ」と刻まれるギターのイントロで、4曲目の「ゲッティング・ベター」が始まる。

これはポール・マッカートニーの作品らしくシンプルなビート、独特としか言いようがないベースの存在感で、ジョンとの個性の違いを鮮やかに感じさせる。

この曲が出来たきっかけはポールによると、愛犬マーサを連れて散歩しているときに雲の切れ間から太陽の光が差してくる気配を感じて、思わず「It’s Getting Better(いい感じになっている)」という言葉が口をついて出たことだったという。

そのフレーズはリンゴが病気でライブを休んだ時、代役を引き受けたドラマーのジミー・ニコルがいつも口にしていたフレーズだった。

長い時間をともにしてきたバンドのメンバーに代わって急に演奏をするのは、ミュージシャンにとっては技術的にも精神的にも大きな負担になる。
だからビートルズのメンバーたちはニコルに対して、「調子はどう?」とか「感じはつかめた?」と、声をかけていたのだろう。

特にベースにとってのドラムは夫婦みたいなものだから、ポールはニコルを気づかっていたにちがいない。
その返事がいつも「It’s Getting Better」だったことを思い出して、このタイトルでポールは曲を書くことにしたという。

ビートルズの研究家としても知られる音楽プロデューサーの川瀬泰雄氏による著書「真実のビートルズ・サウンド完全版」(リットーミュージック)には、いかにもジョンとポールらしいソングライティングのエピソードが紹介されている。

ボールは「僕が”It’s Getting Better all the time”と書いているとジョンが例のぶっきらぼうな調子で、”It can’t no worse (これ以上悪くはならないよ)”」と答えたので、これはいける!って思ったよ。だから、ジョンと曲を作るのは楽しいんだ。僕がきちんと曲を練っておくと、そこにジョンが入って来て、カウンターパンチみたいにメロディーを返してくれる。これは僕らにとってはよくある普通のことだったんだ」と言っている。このコンビネーションこそが、ビートルズが他のバンドと圧倒的に違っている部分だ。

       



1967年3月21日、ビートルズのメンバー3人で「ゲッティング・ベター」のヴォーカルとコーラスをオーバーダブしていた。
リンゴはコーラスに必要ないだろうということで、その日はスタジオに呼ばれていなかった。

オーバーダブのためにヴォーカルを何度かランスルーした後、気分が悪いと言い出したジョンがブースを出て、コントロールルームに入って来た。

プロデューサーのジョージ・マーティンは気分をスッキリさせるために、ジョンを外気に当てようと思って第2スタジオの屋上に連れて行った。
いつものようにビートルズの熱心なファンが、スタジオを取り囲んでいるのを知っていたからだ。

エンジニアのジェフ・エメリックも、その晩の出来事はよく覚えていた。

「ジョンはコントロールルームに上がってきて、天井を見上げながら、『うわぁ‥‥‥、あれを見ろよジョージ!』と言ったんだ。彼が何を見てたのか誰にもわからないし、もちろんジョージにもわけがわからなかった。それでジョンを屋上へ連れ出し、そこに置いてきたのさ」


しばらくしてポールがコントロールルームにいるマーティンに、「ジョンはどうした?」と声をかけたら「屋上で星を見てるよ」という返事が返ってきた。

ポールとジョージはそのとき、マーティンの言葉の重大さに気がついて、あわてて屋上へ救出に向かった。
彼らはジョンがLSDのトリップの真っ最中だったことを知っていたのだ。

第2スタジオの屋上には手すりも囲いもない。
地上まで約30フィートの壁があるだけだった。

幸いにもジョンは誤って落ちたりしないうちにスタジオ内に連れ戻されたので、歴史的な名作『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は、無事に完成したのだった。


〈参考文献〉川瀬 泰雄(著)「真実のビートルズ・サウンド完全版」(リットーミュージック)、マーク・ルーイソン(著) 内田久美子(訳)「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版」(シンコーミュージック・エンタテイメント)




ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(2CD)』
ユニバーサル ミュージックジャパン

『真実のビートルズ・サウンド完全版 全213曲の音楽的マジックを解明』

川瀬泰雄 著
『真実のビートルズ・サウンド完全版 全213曲の音楽的マジックを解明』




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