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「やさしさに包まれたなら」〜うたづくりにおける特別な瞬間について語ったユーミンと井上陽水

2018.10.12

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ユーミンが会いたかったという著名人との対話をまとめた本の「才輝礼賛38のyumiyoriな話」(松任谷由実:著 中央公論新社)には、ほぼ同じ時代を生きてきたシンガー・ソングライターの井上陽水が、最後のひとりとして登場してくる。
対談のなかでは冒頭にユーミンがデビューした当時、マスコミで「女(井上)陽水」とか、「女(吉田)拓郎」という呼ばれ方をしていたことについて、一言こう述べていた。

松任谷 お二人の音楽がどういうものかも知らないのに、そんなレッテル貼られることに、単純にムカついてた。

荒井由実のファースト・アルバム『ひこうき雲』がリリースされたのは1973年11月20日で、そのときはまだ多摩美術大学2年在学中の新人という立場だった。
音楽業界誌には彼女の言葉として「これからの希望としては、作詞作曲を中心にして、スタンダードナンバーをかけるようになりたい」と、ソングライター志向であることが明記されていた。
しかしアルバムの完成度が素晴らしかったことから、それまでになかった新しい感覚の歌詞やメロディー、ロックテイストのサウンドが音楽ファンの一部で注目を集めていく。

その10日後の12月1日、先行シングルの「心もよう」がヒットしていた井上陽水が、日本における史上初のミリオンセラー・アルバムという金字塔を打ち立てる『氷の世界』をリリースした。

それから45年という月日の間に、ユーミンは38枚ものアルバムを世に送り出すことになった。
シンガーソングライターとして発表してきた作品は、実に600曲余りにも及ぶという。
また松任谷由実としての作品以外に、呉田軽穂という名でも楽曲を提供してきた。

井上陽水もまた50年に及ぶキャリアのなかで24枚のスタジオレコーディングアルバムを制作し、他のアーティストとのコラボレーションや楽曲の提供も行ってきた。

そんな二人が対談の最後の方で、うたづくりにおける特別な瞬間ついて、言葉を噛みしめるように語り合っている。

井上 …、今日、珍しくユーミンの曲を作る時の話を聞きながら、そういう会話って、誰かとしたことないなって。
松任谷 音楽やってると、原稿用紙で書くとしたら何十枚にもなるところを、あるメロディーとサウンドで飛び越えちゃう時があるでしょう?
井上 …、ありますね。
松任谷 人の心にというか脳に、ダイレクトにそういう像を結ばせちゃう。もう、説明しなくても。
井上 …、そう。だから、画家や映画監督、彫刻家、もうさまざまなアーティストがいるんですけど、みんな音楽家にある憧れを持ってるケースが多いですね。
松任谷 …、多いですね。

ユーミンが語った「あるメロディーとサウンドで飛び越えちゃう」、「ダイレクトにそういう像を結ばせちゃう」というのは、たとえばこういった部分を指すのであろう。

カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ


セカンド・アルバムの『MISSLIM』に収められた「やさしさに包まれたなら」は、もともと不二家のCMソングとしてつくられたものだという。
そのときは最後の歌詞が「目にうつる全てのことは きみのもの」で、メロディーも異なっていた。

しかし「きみのもの」のままでは、原稿用紙で書くとしたら何十枚にもなるところを飛び越えて、ダイレククトに像を結んだりすることはない。



そこが「メッセージ」になったことによって、純真さを感じさせるユーミンの歌声との相乗効果が出て、独特の世界観がたくさんの人たちに伝わったのである。

そして発表から10年以上が過ぎて、スタジオジブリの映画「魔女の宅急便」でエンディングに使われて初めてヒットしている。
それもまた原稿用紙で書くとしたら何十枚にもなるところを、歌と音楽で飛び越えるかのように、絶妙のマッチングでジブリ映画との相乗効果を発揮したからだった。



(注)文中に引用した松任谷由実氏と井上陽水氏の言葉はすべて、松任谷由実:著「才輝礼賛38のyumiyoriな話」(中央公論新社)からの引用です。

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