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スティングがビートルズから学んだ“可能性”と“多様性”

2024.09.30

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ビートルズに影響を受けたというミュージシャンは枚挙にいとまがない。1970年代後半にポリスのメンバーとしてデビューし、ソロとなった現在も第一線で活躍し続けているスティングもその1人だ。

スティングは「刺す」という意味で、デビュー前に来ていた黄色と黒の衣装が、蜂を連想させることから付いた。本名はゴードン・マシュー・トーマス・サムナー。造船業の盛んなイングランド北東部の町、ウォールズエンドで1951年10月2日に生まれた。

少年時代のスティングは、乳製品業のオーナーをしていた父の仕事の手伝いをする日々を送っていた。母が音楽好きだったこともあり、ロックンロールが流行した1950年代後半には、エルヴィス・プレスリーやリトル・リチャード、ジェリー・リー・ルイスなどのレコードが家にあり、それらをスティングは擦り切れるほど聴いていたという。

ある日、スティングの家に、古いアコースティックのギターがやってきた。父の友人が、カナダに移住するということで譲り受けたものだ。スティングは弦を新しく張り替えると、手に入れた教本を片手にギターの弾き方、そして音楽の理論を学んでいくのだった。

そんなスティングがはじめてビートルズを聴いたのは11歳の頃だ。学校でプールの授業が終わり、更衣室でクラスメートたちと騒がしく着替えていると、部屋の隅に置いてあったトランジスタ・ラジオから、「ラヴ・ミー・ドゥ」が流れてきたのだという。

「その散漫な音楽には、ばか騒ぎをすぐさまやめさせる“何か”があった。ジョンの寂しげなハーモニカとポールのベースのイントロフレーズが二度繰り返される。それからボーカルのハーモニーが五度からマイナー三度で重なり、再びソロでリフレインに戻る。

当時はそんなことはまったくわからなかったが、他のみんなと同じように、何かとても意義のある、音をぎりぎりまでそぎ落としたという意味で、革命的とさえいえる興味深いものを感じたのだ」



1962年10月5日に発売された「ラヴ・ミー・ドゥ」は、ポール・マッカートニーが書いたビートルズのデビュー・シングルだ。

プロデューサーのジョージ・マーティンはレコードを発売する前、宣伝の協力を求めてレコード会社であるEMIの役員たちに聴かせようとしたところ、ビートルズという名前だけで大笑いされてしまったという。

「連中は私のお得意のジョークだと思ったんだ。やつはまたコメディ・レコードを作って、それをネタに我々をかついでいるぞ、と思ったのさ。そのあと、レコードをかけてやると、今度は私の頭が少しおかしくなったんだと思われた。誰もそれが売れるとは思わなかった」


「ラヴ・ミー・ドゥ」はレコード会社の重役の予想を裏切り、全英チャート17位という好調な滑り出しをみせた。そしてそれは、スティングに人生を変えさせるほどの衝撃をもたらすのだった。

何よりもスティングが刺激されたのは、ロンドンから遠く離れたリヴァプールという貧しい町から、彼らが登場したということだという。

「彼らにできるのであれば、僕らにもできるかもしれない。僕らの世代の多くの人は、すくなくともビートルズが成し遂げたことに挑戦する許可を与えられたんだよ」(引用元はこちら


スティングはビートルズのレコードを手に入れると、その音がどうなっているのかを解き明かそうと、何度も繰り返し聴いて研究した。

「まるで金庫破りが錠をこじあけるように、“獲物”を自分のものにするまで、自分なりの分析を超えていると思われる小節部分に、何度も何度もレコードプレーヤーの針を落とすのだ」


それは例えば、「シー・ラヴス・ユー」のサビの終わりで、Gメジャーのコードに足された6度(ミ)の音に興奮する、といった具合だった。

「古臭いダンスバンドの常套手段だが、ビートルズが使うと、微妙な皮肉が効いているように思えたのだ。このときもやはりそんなことは理解できなかったが、以前のポップッミュージックにはなかった洗練されたレベルに、それが到達していることは本能的にわかった」



同世代と比べると、かなり理屈っぽい楽しみ方で、そこがスティングらしいとも感じるが、そのおかげでスティングはビートルズがロックンロールやブルースだけでなく、クラシックやフォーク、ポップスなど、様々な音楽を内包していることに気づいたという。

「音楽が世界を変えるに違いないと考えた世代にとっては、まさに国境のない音楽、至る所に存在するサウンドトラックだったのだ」


スティングもまたポリス時代にはパンクやレゲエ、ソロになってからはジャズやクラシックなど様々なジャンルの音楽を巧みに取り入れているが、その感覚はビートルズを聴くことによって培われたのだろう。


引用元:
『スティング』スティング著/東本貢司(PHP研究所)
『ビートルズ オーラル・ヒストリー』デヴィッド・プリチャード/アラン・ライソート著 加藤律子訳(シンコー・ミュージック)


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