「Big Yellow Taxi」は、ジョニ・ミッチェルが1970年の4月に発表した3rdアルバム『Ladies of the Canyon』からシングルカットされた楽曲だ。環境問題をテーマにした歌で、彼女が自身で吹き込んだ曲としては、最初にヒットしたシングルとなった。
彼らは楽園を掘りおこし舗装して
駐車場とピンクのホテル
それにブティックとディスコを建てた
でもそれってよくある話じゃない?
失ってはじめて気づくなんてね…
彼らは楽園を掘りおこし舗装して駐車場を作った
曲がヒットする前年の1969年11月29日に、マサチューセッツ州ウースターで行ったコンサートのステージ上で、ミッチェルはこんなことを語った。
「2週間前ハワイ(ワイキキ)に行ったの。ハワイに行くのは初めてで、できたら島をもっと見たかったのだけれど、なんだかがっかりして実は2日間しか滞在しなかったわ。
夜の11時に着いて、翌朝ホテルの窓のカーテンをさっと引いたら案の定そこは天国だった。生い茂った緑の丘。すりばち状の山がそびえ、鳥たちは低く飛び回り、インドハッカ(スズメ目ムクドリ科ハッカチョウ属に分類されるアジア産鳥類の1種)がいたるところにいたわ。
ところが、その美しい景色の真ん中に位置していたのは巨大な駐車場だった。それで私はこの曲を書いたの」
大気汚染が進み、自然が破壊されてコンクリートやアスファルトに変わっていく。20世紀以降、人類が繰り返してきた過ちを、彼女は「それってよくある話じゃない?」と歌い、そしてこう付け加えた。
「失ってはじめて気づくなんてね」
当時、ワイキキのフォスター植物園では、自然に生えているヤシの木を引っこ抜いて温室の中に閉じ込めて、入場料を取って観光客に見せていた。歌の中で彼女はそのことを皮肉ったあとに、視点をハワイからリンゴ農家へと移し、農薬漬けとなった農作物を嘆く。
ねえねえ、お百姓さん
DDT(毒性農薬)を使わないで!
林檎にまだら斑点があるのは普通のこと
鳥や虫たちを殺さないで!どうかお願い!
でもそれってよくある話じゃない?
失ってはじめて気づくなんてね…
彼らは楽園を掘りおこし舗装して駐車場を作った
単に果実の見た目をよくするために使われる農薬は、害虫を駆除するだけではなく、それを食べる鳥の体内にも入る。歌詞に登場するDDTという農薬は、第二次大戦後にアメリカ政府によって世界中で使用されたものだ。
戦後、貧しく不衛生な生活を強いられていた日本では、ノミやシラミを駆除するために、子どもたちが全身真っ白になるほど噴霧されたていたという。
当時はまだその“魔法の粉”に、発がん性の毒性があることや、自然界で分解されにくいこと、そして長期間にわたって土や地下水に残留することなどは公表されていなかった。
1962年に生物学者レイチェル・カーソンが発表した書籍『沈黙の春』には、その危険性がはっきりと綴られていた。戦後の高度経済成長と科学万能主義をすべて肯定してきた世界中の人々は、この頃から徐々に環境破壊を繰り返す社会に疑問を抱きはじめたという。
昨日の深夜、網戸がバタンと閉まる音が聞こえて
あの人が大きな黄色いタクシーに乗って何処かへ行っちゃった
でもそれってよくある話じゃない?
失ってはじめて気づくなんてね…
楽園はすっかり舗装されて今では立派な駐車場
この歌の最後の章では、「あの人が大きな黄色いタクシーに乗って何処かへ行っちゃった」と歌われている。“大きな黄色いタクシー(Big Yellow Taxi)”はブルドーザー、そして“あの人(Big old man)”とは自然をあらわすメタファーなのだという。
1970年代の初頭、若者たちの感心は、ベトナム戦争への反対運動から徐々に環境問題へと移り始めていた。「油は海に捨てられ、魚は水銀だらけ」と歌ったマーヴィン・ゲイの「Mercy, Mercy Me」(1971年)と並ぶ“エコロジーソング”の先駆けとなったこの歌。
その後、ボブ・ディランやエイミー・グラント、ネーナ、カウンティング・クロウズらにカヴァーされており、1997年にはジャネット・ジャクソンが「Got Till It’s Gone」というタイトルで、Q-Tipのラップとジョニ・ミッチェルの声を効果的にサンプリングさせたヴァージョンを発表し、大きな話題となった。
<引用元・参考文献『プロテストソングクロニクル 反原発から反差別まで』ソニーミュージックマガジン>
Ladies of the Canyon
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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
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【公演スケジュール】
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