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イラストレーターの永井博による絵本の企画から始まった大滝詠一の『ロング・バケイション』

2020.01.11

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『A LONG VACATION(ア・ロング・バケイション)』というアルバムは、当初は”夏のアルバム”として企画されたものだった。

きっかけとなったのはCBSソニー出版から1979年7月25日に発売されたビジュアルブック、イラストレーターの永井博の<絵本>である。
そこに「ロング・バケーション」と名づけたのが大滝詠一で、<絵本>についてこのように語っている。

後にアルバム・ジャケットとして一世を風靡したあの絵は最初は<絵本>でした。中の文やこのタイトルを考えたのが私で、本には<著書(文)大滝詠一:(絵)永井博>となっています。


大瀧詠一 永井博 絵本のロングバケーション

デザインを担当したのが養父(やぶ)正一、このチームで80年代のナイアガラのイメージを作り上げていくのだが、<絵本>が世の中に出ていった時点では、まだ音楽との関係はなかったという。

しかし1980年の4月13日に「君は天然色」のレコーディングが始まった時、<絵本>の『A LONG VACATION』とイメージを同期させたアルバムの案が固まってきた。
そして大滝の32歳の誕生日にあたる7月28日、6枚のシングル盤と<絵本>をセットにして発売することになった。

ところが作詞を依頼していた松本隆の妹が亡くなったことなどの事情から、完成が大幅に遅れて発売予定は秋まで延期されたのである。

<参照コラム・何も言わずに待ってくれた大滝詠一に「君は天然色」を書いて応えた松本隆

そのおかげで”夏のアルバム”に、予定していなかった”冬の曲”が入ってきた。

途中諸事情で中断したために”冬”の歌も入れることにし、「シベリア鉄道」が出来た時に<絵本>とのセット販売のアイデアは却下となりました。
しかし、アルバム・ジャケットは熟考の結果、当初通り<絵本>と同じ絵にしたのですが、最後の最後まで他の絵を使用するアイディアもあったのです。(はっきりとした”冬の曲”が2曲も入っていることを考えたからです)


こうした事情を経てアルバム『ロング・バケイション』は1981年の3月21日、通常のアナログ30センチLP盤として発売されることになった。

その結果、はっぴいえんど解散後に大滝が興したナイアガラ・レーベルで培ったさまざまな音楽のエッセンスが、このアルバムに全て注ぎ込まれた。
こうして日本のポップス史上における不朽の名作が誕生したのである。

レコード店にディスプレイされたレコードとポスターは、そのクリアな絵柄と色彩で邦楽売り場では圧倒的に目立つものとなった。
壁に飾りたくなるようなアートワークは、30センチ角というLPレコードのおかげで鮮やかに際立っていた。

アロング・バケイション ジャケット帯なし アロング・バケイション
アメリカン・ポップスを想起させるカラフルなジャケットと、ナイアガラ・サウンドが合体してベストセラーになっていった状況を、大瀧自身がこう述べている。

その好評さは音楽を凌いだ感すらありました。
「ジャケットで売れた」と当時盛んに言われたものでした。
永井さんの絵、養父さんのデザイン、『ロング・バケーション』と言うタイトル、そしてナイアガラ・サウンドと松本隆君の詞、どの一つが欠けてもあのような大ブームには至らなかったでしょうし、あれほどいろいろなものが相乗効果を次々と呼んだアルバムも類例は少ないと思います。


『ロング・バケイション』のブームとナイアガラの快進撃は、永井博の絵と松本隆の詞を得た「さらばシベリア鉄道」が、シングル・カット(「A面で恋をして」との両A面シングル)されて、さらに記録的なロングセラーになっていった。

大瀧詠一 さらばシベリア鉄道




(注)大滝詠一氏の発言はすべて、大瀧詠一著「All About Niagara」(2001年 白夜書房)からの引用です。

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