『ザ・タイマーズ スペシャル・エディション』は、1989年11月に発表されたファースト・アルバム『ザ・タイマーズ』の内容に加えて、未発表音源や秘蔵映像の数々が収録されたCD/DVD3枚組からなる作品だ。
特筆すべきは、DVDに収録されたタイマーズのライブ映像。1988〜1989年にゲリラ的に敢行されたステージから14曲が収められているのだが、当時の空気を実に生々しく収めた貴重なものとなっている。
1988年といえば、RCサクセションは2月にオリジナル・アルバム『MARVY』を発表。その手ごたえを原動力に、RCはカバー・アルバム『COVERS』を完成させたのだが、所属するレコード会社の意向によって急遽発売中止の憂き目をみる。意味深な「素晴らしすぎて発売できません」というキャッチコピーの新聞広告とともに、社会的な騒動に発展。
『COVERS』は、別のレーベルからなんとか8月に発売されたものの、失望の底に突き落とされた忌野清志郎は同年12月、RCとしてライブ・アルバム『コブラの悩み』をリリース。怒りや苦悩をストレートにさらけ出したパフォーマンスは、鬼気迫る凄みに満ちていた。
そんな時代背景から鬼っ子的に生まれた正体不明の覆面バンドが、ザ・タイマーズであった。
DVDの冒頭に映し出されるのは、楽屋にて落ち着かない様子で準備をするボーカル=ZERRYの姿。これは結成直後の1988年8月3日富士急ハイランドで行われたロックフェスに飛び入り出演する直前に記録された映像なのだが、登場した作業員風の4人を目の当たりにして、ほとんどの観客がどう反応していいのかわからずただただ唖然としている光景が興味深い。
そこから時間は飛んで、映像は1988年11月13日を映し出す。今も語り草になっている、横浜国立大学にて行われた学園祭ライブの模様だ。
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前述のロックフェスからわずか3ヶ月しか経過していないが、その間に口コミでタイマーズの噂を知った耳の早いファンが会場に集まった。しかし、多くの人はタイマーズの存在を知らないまま、ほとんど事故のような形でステージを目撃することとなったのだろう。
筆者も他の出演者が目当てでこの会場に居合わせたのだが、〈きめた〜い〉と「タイマーズのテーマ」を演奏しはじめた途端に大勢の観客が一気に惹きつけられ、激しい渦に巻き込まれたかのような盛り上がりへと変化していったのを鮮烈に記憶している。
当時、東芝EMIの宣伝マンとして、RCサクセションや忌野清志郎の活動をつぶさに見守ってきた高橋ROCK ME BABY氏は、当日の光景を本作のライナーノーツでこう述懐している。
黒くうねるようなノリ!パンクでファンクでブルーズ!洗練を拒否したような、徹底的に清志郎的なものを排除したロックン・ロール。しかし、本当の清志郎はどっちなのかわからない。どちらでもあり、どちらでもない。誰にも、何者にもつかまらない忌野清志郎の本質を、まだこの時には冷静に受け止められなかった。ただただ圧倒された!
(『ザ・タイマーズ スペシャル・エディション』高橋ROCK ME BABY執筆ライナーノーツより引用)
ちなみに、当日のセットリストはこのような内容となっていた。
1988年11月13日@横浜国立大学 ザ・タイマーズ 演奏曲
1. タイマーズのテーマ
2. 偽善者
3. 偉人の歌
4. さようなら○ちゃん(「こんにちは赤ちゃん」替え歌)
5. イモ
6. 土木作業員ブルース
7. 原発賛成音頭
8. ロックン仁義
9. デイ・ドリーム・ビリーバー
10. 彼女の笑顔
11. サマータイムブルース
12. タイマーズのテーマ(エンディング)
「タイマーズのテーマ」から間髪入れずに「偽善者」を繰り出し、さらに「偉人の歌」を畳み掛ける構成は、約1年後にリリースされることになるアルバム『ザ・タイマーズ』とまったく同じ流れなのだが、この日は「偉人の歌」を歌おうとする直前になってライブの運営スタッフが割って入り、演奏を中断させた。盛り上がりすぎたあまりに多くの観客がステージ前に詰め寄せ、ケガ人が出たためだという。映像に記録されたまさに暴動寸前のようにカオスな光景は、今ではちょっと考えられないほどだ。
「後ろに下がらないとライブがこれ以上続けられない」とスタッフがアナウンスする後ろで、明らかに不機嫌そうなZERRYが辛抱たまらずギターでブギのリフを弾き、「偉人の歌」を歌いはじめる。最初から決まった曲順だったとはいえ、〈もしも僕がえらくなったなら 君がうたう歌を止めたりしないさ〉というフレーズが飛び出すと会場からはさらに歓声があがり、もう誰にも止められない状態になっていた。
この日のライブからDVDに収録されたのは、あと4曲。『COVERS』騒動を逆手にとった「自衛隊に入ろう」的なメッセージソング「原発賛成音頭」に、〈好きな歌さえうたえねぇ 替え歌のひとつにもいちいちめくじらを立てる いやな世の中になっちまった〉と憂う「ロックン仁義」を立て続けに歌い、さらにそのままシンプルに美しい「デイ・ドリーム・ビリーバー」「彼女の笑顔」へと続く流れこそが、タイマーズが本来やりたかったことを如実に表れたシーンだったのかもしれない。
プロテストソングもラブソングもナンセンスソングも、おかまいなしに歌える。そんな自由が確実に侵食されつつあることを、ザ・タイマーズは1988年の映像から訴えかけてくるのだ。
ザ・タイマーズ
『THE TIMERS スペシャル・エディション』
(ユニバーサル)
- Amazon
*ディスク3(DVD)に1988年11月13日・横浜国大のステージの模様を7曲収録している(ライブ映像は全14曲)。
Label website
http://www.universal-music.co.jp/the-timers/
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