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『浜田真理子 in 三江線』~廃線になる列車で行われた歌声イベントと「あなたへ」

2018.01.01

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中国山地を貫く江の川に沿って、島根県江津市の江津駅と広島県三次市の三次駅を結ぶJR三江線は、全長108キロの鉄道路線で全部で35の駅がある。
40年余りに渡って小さな集落をつないでゆっくりと走り抜けてきた三江線は、沿線の人口減少やマイカー利用者によって乗客が減ったことから、廃線の危機が迫っていた。

『浜田真理子と「うたごえ列車」で行こう in 三江線』という貸し切り列車を使ったイベントは2016年の11月に、三江線を魅力化することで利用者を増やしたいと声を上げた人たちによる企画で実施された。



地元の松江で開かれた「歌声喫茶」のイベントに参加してみんなで声を合わせて歌う楽しさを知って以来、浜田は何かと観客と一緒に歌う機会をつくってきたという。
だからその手づくりの企画と趣旨にも賛同し、喜んで参加することにした。

しかしながらイベントが行われる前に、2017年の3月いっぱいで三江線の廃止が決まってしまった。
浜田がイベントに出演した後で毎日新聞へ寄稿した文章を紹介する。

 11月のよく晴れた日曜日、JR三江線で「浜田真理子と歌声列車で行こう」というイベントを行いました。
 三江線沿線魅力化プロジェクトの知人に誘われたことがきっかけで思いついた、江津駅から石見川本駅までの約1時間を貸し切り列車で歌いながら往復するという企画です。
 定員は30名。北海道、九州、四国、関東、関西そして地元から参加者が集結しました。
 以前「情熱大陸」というテレビ番組でお世話になった制作スタッフが企画に興味を持って、撮影したいと東京から来てくれました。地元の方の協力で絶景ポイントなども押さえて、ドローンでの空撮も。思いがけない同窓会になりました。
 主催者の機転で、沿線住民の方々が列車の通る時間に合わせて手を振ってくれる趣向もあり、皆大喜び。地元食材を使ったお弁当(お手紙付き!)にも心がこもっていました。
 この日、予算のない中でどれだけ多くの方々の協力をいただいたかしれません。ちょっとだけ自分の得意なことを出しあう、という温かくて豊かな時間は一生の思い出となり同時に今後のヒントにもなりました。
 わたしも含めてほとんどの乗客は初・三江線でしたが三江線は2018年の春に廃止が決定しています。最初で最後の貸し切り列車から見える風景を忘れないようしっかりと目に焼き付けました。
 写真集や宇都井駅のイルミネーションなどとともに今後も沿線の魅力が伝わっていくことを願います。
 【ミュージシャン、浜田真理子】(毎日新聞2016年12月6日 地方版)




島根県で生まれ育った浜田真理子は、松江市在住のシンガー・ソングライターである。
1998年にリリースした1stアルバム『mariko』が口コミでロング・ヒットになり、2002年には彼女のためのレーベル「美音堂」が設立されて2ndアルバム『あなたへ』をリリースした。

そして2003年12月に公開された寺島しのぶ主演の映画『ヴァイブレータ』(監督・廣木隆一)で、「あなたへ」が挿入歌となったことで浜田は知る人ぞ知る存在になっていく。

2004年には松江でOL生活を続けながら音楽活動を行う姿がテレビ番組「情熱大陸」で取り上げられて、全国的にも広く知られるようになった。
また演出家で作家でもあった久世光彦のエッセイ「マイ・ラスト・ソング」を題材にした音楽舞台を、女優の小泉今日子(朗読)と二人でつくりあげて好評を博している。



その日の模様を9台のカメラで収録した『浜田真理子in三江線』の映像は、まだ編集中の段階で公開になるかどうかは未定だというが、関係者に見せて頂くことができた。

江津駅と石見川本駅を往復する貸切列車のなかで、乗客が秋の車窓を楽しみながら浜田真理子とともに一緒に歌っていく様子と、もう二度と見られなくなる列車が走る風景の数々を記録したものだが、そのなかで乗客と一緒に歌われていたオリジナル曲の「あなたへ」が、テーマソングのように聴こえて印象的だった。

自然とともに生きてきた人たちの中でそのままなじんでいた三江線が、地元でまだ必要とされながらも経済的に成り立たなくなって消えていく。
だが人と共生していることで作られる風景をそのまま残せないとしても、天空の駅とも呼ばれる宇津井駅のイルミネーションによる「INAKAイルミ」などのイベントを残してほしいという声は多い。


<写真提供・赤い人>




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